鈴木董「オスマン帝国」

オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」 (講談社現代新書)

オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」 (講談社現代新書)

 副題に「イスラム世界の『柔らかい専制』」。このところ、イスラム世界、オスマン帝国に関心を持っていて、読む。なるほど、このようにオスマンは帝国化したのか。原題の西欧的視点から見ると、オスマン=野蛮という感じがするのですが、それは創られたイメージで、当時の世界にあってはオスマン帝国が先進国で(でなければ、地中海を支配し、ウィーンまで脅かすまでになる帝国などにはらならない)、西欧の方が遅れていた。それが衰退して、見る影もなくなってしまうのだから、諸行無常だなあ。ともあれ、全盛期のオスマンは、イスラムを信奉しながらも開かれた国家で、他の宗教とも共存する道を残し、奴隷から宰相やら将軍が生まれる能力主義の世界であった。技術的にも進んでいた。しかし、一方で、スルタンの世襲では、権力の座を継いだ者は、兄弟を皆殺しにし、宰相たちもスルタンの寵愛を受けている間はいいが、配流などはまだいいほうで、処刑などといった末路を辿る者も少なくない。「軍人の帝国」が「官僚の帝国」となり、次第に能力主義も形骸化し、世襲化が進み出し、政治も後宮が幅を効かすようになる。そのうち技術の先進性へのこだわりも消え、帝国は内向きになり、没落していく。何だか、どこかで聞いたような話だなあ。オスマン帝国の歴史は面白い。そして、ロシアとグルジアの紛争など、世界史のメーン舞台は再び、欧州とアジアの接点でもある、この地域に戻っている感じがする。歴史は巡るんだなあ。