ノー・カントリー

ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

ミラーズ・クロッシング (スペシャル・エディション) [DVD] ファーゴ [DVD] アカデミー作品賞・監督賞をとったコーエン兄弟のサスペンス映画。異様な緊張感を持った、とてつもなく怖い映画。コーエン兄弟の映画は「ファーゴ」とか、「ミラーズ・クロッシング」とか、好きな映画が多いのだが、今回は、アカデミー助演男優賞を受賞したハビエル・バルデム演じる殺し屋が存在するだけで恐ろしい。映画の怖さとは、手や足が飛んだり、首が飛んだりすることではなく、何が起きるか、わからないという想像の中にこそ最大の恐怖があるということが改めてわかる。バルデムが雑貨屋の主人とコイン・トスをするくだりなど、ただ話をしているだけで怖い(こうした映画を見てしまうと、僕には、お店はできないなあ。客が怖くなって・・・)。最近の映画は、音楽で恐怖心を盛り上げることが多いが、この映画では音楽があまり入らず、台詞も少ない、静寂が恐怖を増幅していく。テレビやらiPodやら何やら、様々な音に囲まれた現代では、静寂こそ非日常的瞬間で、それが居心地を悪くさせるのかもしれない。沈黙に耐えられない時代なんだなあ。バルデム演じる殺し屋も寡黙。ヘアスタイルなど容貌を含めたバルデムの異様さは、トミー・リー・ジョーンズ扮する田舎の老保安官の木訥さ、平凡さ、日常性と対照をなし、それがまた恐怖を際だたせる。
 でも、結局、人間にとって最大の恐怖は人間そのものだなあ。「No Country for Old Man」というタイトルは、個人の欲望が解き放たれてしまった現代の人間世界は、もう年寄りにはわかりません、という感じ。老保安官は犯罪の現実に疲れ切り、いまさら犯罪者の心理を理解しようなどとは思わない。かつては、そう思っていたのかもしれないが、理解を絶した「another country」になってしまったと諦観しているのかもしれない。「バートン・フィンク」にしても、「ファーゴ」にしても、これはコーエン兄弟自身の人間観なのかもしれないが。
 俳優陣は、ジョーンズ、バルデムをはじめ、ジョシュ・ブローリンウディ・ハレルソンケリー・マクドナルドと、みんな良かった。コーエン兄弟の演出は緩急自在。観客の恐怖心を高めておいて外してみたり、その一方で、部屋から出てきたバルデムが靴の裏を確かめるところとか(それだけで人を殺して血が付いていないか確認しているとわかる)、ディテールが凝っている。アカデミー作品賞をとるのも納得。
【参考】
オフィシャルページ
 http://www.paramount.jp/movie/nocountry/
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