ジョン・マーチャント「アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ」

アンティキテラ古代ギリシアのコンピュータ

アンティキテラ古代ギリシアのコンピュータ

 地中海の海底から発見された古代の機械をめぐる物語。それは古代ギリシアが生んだ精密な機械式コンピュータだった。まさに事実は小説よりも奇なり。これは科学史の再発見であると同時に、その謎を解くために生涯を捧げた人々の物語でもある。読んでいて思うのは、これほど進化した科学文明がなぜ消えてしまったのか、継承されなかったのか、という疑問。その答えのひとつは、写本時代には、必ずしも価値のある本が残るとは限らないらしいことだ。で、こんな一節がある。

 現存する古代の文献は、非常に視点が偏っている。それは全歴史を通じて、筆記者が書き写す価値があると考えた内容だけが、文献として残された傾向が強いからだ。そして残念ながら、最も大事な内容がかならず残ったわけではなく、むしろその逆が多かった。たとえば、知的水準が低下すると、筆記者は昔の高度な学識をあらわす文章を書き写さなかった。自分たちには理解できなかったためだ。そしてかわりに大衆受けしそうな単純な内容を筆写した。たとえば未来の人類が、私たちの科学知識をアメリカのテレビドラマの「フレンズ」や「ビッグ・ブラザー」だけを手がかりに判断した場合を、ご想像いただきたい。

 なるほどなあ。偉大な科学文明が語り継がれなかった可能性もあるらしい。特に、理系の文献は残らなかった様子。文化が発展し、豊かになると、理系離れが進むのは古今東西共通の現象なのだろうか。