ゴードン・ベル&ジム・ゲメル「ライフログのすすめ」

ライフログのすすめ―人生の「すべて」をデジタルに記録する! (ハヤカワ新書juice)

ライフログのすすめ―人生の「すべて」をデジタルに記録する! (ハヤカワ新書juice)

 すべてをデジタルで記憶する。紙も映像も何もかも、自分の体験・知識をすべてデジタルに置き換える。全てを完全に思い出せる「トータル・リコール」の状態を創る。ゴードン・ベルは、IT業界のグールーの一人だが、こんなことを考え、そして自分で実際にペーパーレス=デジタル化を追求していたのか。過激だなあ。でも、確かに今はかなりの程度まで個人でもライフログ化を現実にできる、すごい時代になったというか、怖いというか。その果てに先にどんな世界が来るのか。軍事の世界では、兵隊に小型の携帯カメラをつけさせて記録することが行われているが、これなども戦闘体験のライフログをつくるという構想があったらしい。現実はSFよりも奇なり。そして確かに有効かも知れない。ウェアラブル・コンピューターというはまず米軍あたりから始まるのだろうか。軍事以外でいうと、医療・健康分野かも知れないけど。ライフログの世界を目指して、様々なサービスが登場してくるのだろう。技術系とはいっても、もともとビジネスの世界にいた人のためだろうか、ゴードン・ベルは、ライフログの世界に大きなビジネスチャンスを見ている。最後にベンチャーが成功しそうな分野の紹介まで付いている。
 これを読むと、エバーノート(Evernote)などもライフログ・ソフトの先駆みたいなものなのだな。マイクロソフトもこの分野に力を入れてくる様子。クラウドがこうした動きを加速するような気もするが、ベルはまだ現時点では、クラウドはサービス提供企業の基盤も含めて不安定と思っているようで、ログは自分でハードディスクに持つことを推奨している。いずれスイス銀行のようなデータ管理サービスが出てくるだろうし、最も有望な分野とはしているけど、今ではないと思っているんだな。
 IT業界で昔、ビル・ゲイツは自分のアバターをインターネットの世界に創って、永遠に生き続けることを考えているという「都市伝説」みたいな話があったが、これを読んでいると、人生のすべてをデジタル化することの延長線上に本人と同じ人格のアバターが出来るというような話が出てくる。ビル・ゲイツ伝説も全く根も葉もない話でもなかったのかも。それがビル・ゲイツかどうかは別として、自分の分身をネット上に保存するという考えはどこかにあったんだなあ。
 で、個人がライフログを構築するうえで、ゴードン・ベルが必要と考える基本的な機器は、スマートフォンiPhoneとか、アンドロイドですね)、GPS機器(これはいまやケータイには標準装備されるようになってきている。ベルはデジカメにも必須という)、デジタルカメラ(これはスマートフォンのデジカメ機能がまだ、あまり良くないから)、インターネット接続(クラウドを使うためには高速回線)、スキャナー。こうして考えると、確かに自分でさえ、道具はみんな持っている(GPSはケータイのものだが)。やろうと思えば、すぐにライフログを始められるわけだな。パソコン以外のデジタル端末はまだまだ、いろいろと出てきそう。また、音声をテキストに変えたり、サービスもまだまだ出てきそう。デジタルのインフラはできたけど、ハード、ソフト、サービスそれぞれ、いろんな可能性があるな。
 もうひとつ読んでいて面白いと思ったのは、ゴードン・ベルは、FacebookTwitterなどで情報をシェアすることには関心を持っていないこと。子孫や後世に自分のライフログを残したいと思っているようだが、現代で情報を社会的に公開することには抵抗がある様子。このあたりのプライバシーに対する観念は世代によって差があるのかもしれない。著作権に厳しいマイクロソフトとの関係が深いからというよりも、世代的な問題と考えた方がいいんだろう。
 データフォーマットの問題など障害となる問題についても取り上げられている。しかし、こうした問題はいずれ解決されていくだろうし、その問題を解決すること自体がビジネスにつながっていく。
 ともあれ、なかなか刺激的な本だった。デジタルの世界では、まだまだ革新が続くなあ。