榎本泰子「上海」

上海 - 多国籍都市の百年 (中公新書)

上海 - 多国籍都市の百年 (中公新書)

 副題に「多国籍都市の百年」。1842年に開港され、1845年に英国租界が設置された上海。いまは株式市場でも東京マーケットを超え、アジアの中心となった上海の歴史のお勉強。なるほど、こうして国際都市は形成されたのか。英国、米国、フランス、ロシア、日本、中国にユダヤ人が入り乱れ、ある種、中国ばかりか、英米本国の権力も及ばぬ自由都市だったのだな。この本では、イギリス人、アメリカ人、ロシア人、日本人、ユダヤ人、中国人と、それぞれの人種の興亡を通じて、上海の歴史をたどっていく。中国が世界経済の中で存在感を増すなか、アジアの中核都市となっていくだけのDNAが上海にあることがわかる。「東洋のニューヨーク」、「東洋のパリ」と呼ばれ、多国籍都市だった。バレエ・リュス(ロシア・バレエ団)はパリだけじゃなくて、上海にもあったのか。
 しかし、一方で、市場経済化が進み、上海がニューヨーク、ロンドンとともに世界経済のひとつの極となっていくに連れて、上海は中国から遊離していくのだろうか。上海の歴史を読んでいくと、そうした思いにも駆られる。戦前の上海は、中国であって中国でなかったし、農村から生まれた中華人民共和国は、文化大革命の時代が象徴するように、上海の都市的要素・コスモポリタン的資質を嫌い、破壊してきたようにもみえる。
 と、もうひとつ読んでいて、改めて知ったのは、ジャーディン・マセソン商会も、香港上海銀行も、サッスーン商会も、上海で生まれたグローバル財閥はいずれもアヘン取引で財をなしたこと。確かに時代を考えれば、それは何の不思議もないのだが、そうした歴史を持った企業だったのだなあ。急激に資本を蓄積することができた企業というのは、どこかに怪しさが漂うのかも。原始的資本蓄積かしら。