ジョン・ノフシンガー「最新・行動ファイナンス入門」

最新 行動ファイナンス入門

最新 行動ファイナンス入門

  • 作者: ジョン・R.ノフシンガー,John R. Nofsinger,大前恵一朗
  • 出版社/メーカー: ピアソンエデュケーション
  • 発売日: 2002/08
  • メディア: 単行本
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 投資理論のトレンドは最近、「行動ファイナンス理論」になっていると聞いたことから関心をもち、たまたま見つけた、この本を読んでみる。コンパクトにまとまり、裏付けとなるデータも整った、わかりやすい本だった。
 投資家の行動は必ずしも理論に基づいた合理的なものではない。心理的バイアスが投資行動を左右する。データを見れば、投資リターンが大きいとわかっていても、自国以外の投資には消極的だし、株式投資はリスクが大きいという心理的抵抗感はいまだに大きい。実際には長期投資では株式のリターンが大きくても避ける人が多い。また、株式投資に自信がある人ほど、投資に積極的になる結果、売り急ぎの傾向があり、取引手数料も加わって、統計をとってみると、純投資収益では持ったままの人よりもリターンが低かったりするーーなどという話がデータにもとづいて語られる。
 もうひとつ、この本を読んでいて、バフェットの投資理論と同じだと思ったのは、資産を増やすという観点から言うと、配当で利益を吐き出す会社よりも、利益を投資に回すなり、株主資本の充実に回し、時価総額の拡大に熱心な会社のほうがいいと言う考え方。投資サイドにすれば、配当をもらっても税金をとられるだけ、というわけ。税金も考慮に入れ、資産をつくる手段としての株式の有用性を説いている。
 ともあれ、リスク意識、投資に対する慣れ、投資に関する会話、メディアの影響など、さまざまな心理的要因が投資行動を制約する。現代ファイナンス理論は「人は合理的な判断をする」「人の予測には偏見がない」「人は自己の利益を最大化しようとする」という実験室のテストのような前提でいたのだが、行動ファイナンス理論では、投資家は合理的ではなく、投資家による不合理な行動は市場の機能、個々人の資産形成に影響を与えると考える。合理的期待形成理論は現実の経済にはないということ。こうした考え方はケインズと共通したところがあり、ケインズはマーケットの実務家でもあったのだな、と思う。
 この本、各章の最後に、まとめや例題がついているなど「行動ファイナンス理論」の教科書で、以下のことを学ぶことを目的としている。

・投資行動に影響を与える様々な心理的バイアス
・これらのバイアスが投資判断にどのような影響を与えるか
・誤った投資判断による失敗の例
心理的バイアスを認識し、どのように避けるかを知る

 で、いくつか、抜書きしてみると。
 「ギャンブラーの誤解」といわれる法則。

 コインの裏表を出すゲームで3回連続して表が出たとする。すると、4回目は裏が出そうな気がするだろう。しかし、表と裏の出る確率はいずれも50%である。

 自信過剰については、こんな具合。

 自信過剰は、リスクに対する態度にも影響する。合理的な投資家は収益率を最大化するとともに、リスクを最小化しようとする。しかし、自信過剰の投資家は負うべきリスクのレベルを誤って評価してしまう。結果的に、自信過剰のポートフォリオは、収益率に対して必要以上のリスクを負ってしまうことになる。

 そして、自信過剰が生まれる一因は、知識についての幻想だという。インターネットの登場で、さまざまな情報にアクセスできるようになった結果、その傾向は加速する。しかし、実際には情報を十分に分析できない。むしろ、多くの情報を知っているという「知識への過信」が自信過剰を生む。
 自信過剰が投資行動のリスクを増やすデータ的根拠も紹介される。

 面白いことに人は、結果をコントロール下に置いていると考えているとき(実際には明らかに違うときも含む)ほど、自信過剰に陥りやすい。例えば、もしコインの表か裏かについて賭けをするとした場合、これからコインを投げる場合のほうが、すでにコインを投げられていて表か裏かが隠されている場合に比べて、大きな額を賭ける傾向がある。逆にいえば、これからコインを投げる場合に大きな額を賭けるのは、人は何らかのかたちで投げたコインの出方に影響を与えることができると考えているのである。コインの裏表の出方に影響を与えると考えるのは明らかに幻想である。

 なるほど。で、自信過剰のリスクをまとめると

・投資家は自信過剰に陥ることがある。投資家はその能力、知識、将来の見通しに関して自信過剰になることがある。
・自信過剰は過度に頻々な取引を行わせ、パフォーマンス悪化をもたらす。パフォーマンス悪化は、取引費用の増大にのみならず、良いパフォーマンスの株式を売らせ、パフォーマンスの悪い株式を購入させることから発生する。
・自信過剰により高いリスクの株式を購入し、ポートフォリオの分散化が不十分となり、高いベータの小型企業株式に投資するようになる。
・オンライン投資に転向した投資家は自信過剰に陥りやすくなる。

 次に投資家が陥りがちな「後悔への恐怖とプライド」について

 人は後悔を避けプライドを保とうとする。投資家はパフォーマンスの良い株式を早く売却し過ぎ、パフォーマンスの悪い株式を長く持ちすぎる傾向がある。これは資産形成に対し2つの問題がある。ひとつはキャピタル・ゲインが実現し課税されてしまうことである。もうひとつはパフォーマンスの良い株式を早く売却してしまい、保有し続けているパフォーマンスの悪い株式は引き続き悪いパフォーマンとなり続けることである。

 で、用語解説的に、「ハウス・マネー効果」とは

 利益を得た経験の後では、人はより多くのリスクをとろうとする。ギャンブラーはこれをハウス・マネーによる遊びと呼ぶ。(略)勝ったお金は自分のお金とは信じられないため、カジノのお金(ハウス・マネー)でギャンブルをしているように感じるのである。

 「スネーク・バイト効果」とは

 人々は、損をした経験があるとリスクをとらない。損をした跡は、ギャンブルをしない傾向がある。(略)損をした経験は、蛇に噛まれた(スネーク・バイト)ようなものである。蛇は頻繁に人を噛むものではない。しかし一度経験すると、必要以上に慎重になってしまう。一度損をすると、損をし続けるかのように感じてしまう。ゆえに、リスクを避けるのである。これがスネーク・バイト効果(リスク回避効果)である。

 ブレーク・イーブン効果というのもある。こちらは、スネーク・バイト効果とは異なり、損をした場合に、大きなリスクをとっても、ブレーク・イーブンに持ち込もうとする心理。ハウス・マネー効果と交互に繰り返す場合もあるという。
 で、「ハウス・マネー効果」がバブルを生み、育て、爛熟させ、崩壊後は「スネーク・バイト効果」が株価の低迷を深く、長期化させる。で、こういう哲学的なまとめが。

 記憶は事実の記録ではなく、感情・感覚の記録である。ゆえに、実際の出来事を誤って記憶したり、都合の悪い情報を無視してしまうことがあるのである。

 次に投資対象としては、成長株(グラマー株)とバリュー株の投資収益率を比較すると、バリュー株のほうがリターンが高い。特に5年間の長期投資になると、その差は顕著になる。
 また、投資には「慣れ」がつきまとうという。慣れによる投資とは、自国と海外を比較すれば、自国の市場。海外の場合、自国に馴染みのあるマーケットが主体。さに、この本の調査では、投資クラブは機能していないという。S&Pの投資収益率に比べて、投資クラブの収益率は低い。感情とバブルについては以下の如し。

 感情は意思決定にとって重要な要素である。特に投資の意思決定のように不確実性の高い状況においては重要である。感情はときには論理を上回る影響力を持つ。楽観的すぎると、リスクを過小評価し、期待するパフォーマンスを過大評価してしまう。楽観的な投資家はよくできたストーリーの株式を好み、批判的に見ることがない。楽観的な投資家がバブルを引き起こすのである。

 で、最後の最後に、こうした「バイアスに打ち克つ戦略」とは

戦略1:バイアスを理解せよ
戦略2:なぜ投資しているかを理解せよ
戦略3:数量的な投資基準を持て
戦略4:分散化せよ
   ・異なるタイプの株式を保有することにより分散化せよ
   ・自分の働く会社にはほとんど投資するな
   ・債券にも投資せよ
戦略5:自己の投資環境をコントロールせよ
   ・株価をチェックするのは月1回で十分
   ・取引をするのは月に1回、毎月同じ日とせよ
   ・ポートフォリオを年に1回だけ確認し、自分の目的と比較せよ

 追加的なルールもある

1.株価5ドル未満の株式は避けるべきである。←投機はしない
2.チャットルームや電子掲示板は娯楽目的の利用に限るべきである。
3.自分の投資基準に適合しない株式を取引するならば、市場に出回っている情報よりもその株式についてよく知っているかどうか確認する必要がある。投資基準に適合しない投資をするのは、それを克服する有益な情報を持っている場合に限られる。そんなことが現実にあるだろうか。
4.市場と同じリターンを得るという目的を持つべきである。
5.心理的バイアスを毎年検証するべきである。

 実践的な教科書でした。