ロシア・スパイ事件で思い浮かんだ映画化されたスパイ小説3作

 米国のロシア美人スパイ事件が話題になっているが、「ロシア」「スパイ」という言葉で、映画化された3篇の小説がすぐに頭に浮かんだ。まずは、これ。

007/ロシアから愛をこめて (創元推理文庫)

007/ロシアから愛をこめて (創元推理文庫)

 誰でも知っているイアン・フレミングジェームズ・ボンド・シリーズの一作。映画化されたのはご存知、こちら。 今回調べていて初めて気がついたのだが、小説は「ロシアから」、映画は「ロシアより」だった。原題は「From Russia with Love」。映画のほうがポピュラーなためもあるだろうが、「ロシアより」のほうが語感がいいように思える。で、映画は公開当時は「007 危機一発」だったが、のちに原題に改められた。スパイ映画の黎明期にあっては邦題を「危機一発」としてのはマーケティング上、正しいと思う。「ロシアより」では恋愛映画みたいだから。しかし、時代の変化に合わせて改題したのは、大正解。いまやスパイ映画のクラシックだから、「ロシアより」のほうが拡張高い。この映画のヒロイン「タチアナ」を演じたダニエラ・ビアンキは歴代ボンド・ガールのなかでも品があった。
 で、007的な冒険小説のノリではなく、シリアスな名作というと、こちら。
寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

 ジョン・ル・カレ初期の作品。改めて調べたら、敵役は東ドイツ情報部で、ソ連(ロシア)ではなかった。まあ、ロシアと同じ東側陣営ということで。ベルリンを舞台に英国情報部と東ドイツ情報部との虚々実々の暗闘と、そこに巻き込まれた人間の悲劇を描く傑作。映画化されたのはこちら。
寒い国から帰ったスパイ【字幕版】 [VHS]

寒い国から帰ったスパイ【字幕版】 [VHS]

 リチャード・バートン主演マーティン・リット監督の佳作。モノクロ映像がリアルだったものの、地味で暗い話だったためか、DVDは出ていない様子。ちょっとさびしい。で、こちらも小説は「寒い国から帰ってきた」、映画は「寒い国から帰った」、なぜか微妙に違う。
 ル・カレといえば、ジョージ・スマイリーを主人公にした一連の作品(「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」「スクールボーイ閣下」「スマイリーと仲間たち」など)が代表作で、こちらはまさにソ連情報部と英国情報部の冷戦を描く。そして、スパイ小説という以上に、スパイという存在を通して人間の心を描く傑作文学になっている。ただ、映画化されたのかどうかは微妙。されたとしても印象に残っていない。そんなこともあり、こちらはちょっと外して、好きな作品としてあげたいのはこちら。
ロシア・ハウス〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ロシア・ハウス〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

 冷戦の終焉が近づいていたペレストロイカ時代のソ連を舞台にした物語。ル・カレにしてはセンチメンタルかもしれないが、哀しさと甘さが交じり合った感じが好きだ。映画はこちら。
ロシア・ハウス [DVD]

ロシア・ハウス [DVD]

 ショーン・コネリーミシェル・ファイファーの共演。映画は甘さのほうが前面に出て、ちょっとという気もする。コネリーもファイファーも好きなので最後まで見てしまったが、小説のほうがオススメ。
 結局、「ロシア」「スパイ」というと、ジョン・ル・カレイアン・フレミングということになってしまうのかもしれない。フレデリック・フォーサイスもどうかと思ったのだが、ロシアを舞台にした作品で思い浮かぶのは「イコン」ぐらい。でも、冷戦下の情報部同士の暗闘という話ではない。こちらは映画になったのだろうか。なったとしも、話題にはなっていない。今度のロシア美人スパイ事件は米国が舞台だが、冷戦時代を描いたスパイ小説・映画というと、米国は意外と不毛地帯。アクション映画がいくつかあったかもしれないが、これはというものがほとんど思い浮かばない。スパイという陰影に満ちた話は、冷戦の主戦場で、複雑な歴史を持った欧州勢のほうが得意なようだ。英国人のインテリが米国人のことを「ナイーブ」と評したのを聞いたことあるが、そんな英国だから、影の世界を描くことに長けているのかもしれない。