映画「ミレニアム」を見ていたら、「マルティン・ベック」シリーズを思い出した
スウェーデンが生んだ大ヒット・ミステリーの「ミレニアム」三部作の映画化第1作「ドラゴン・タトゥーの女」を見たのだが、見ているうちに、同じスウェーデンの警察小説シリーズを思い出した。マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー夫妻が生んだ「マルティン・ベック」シリーズ。「ミレニアム」の主人公は、名誉毀損で訴えられた調査報道記者と鼻ピアスにドラゴンの刺青を背中に入れた女性ハッカーだが、こちらはマルティン・ベック警視を中心とした個性的な刑事たちが集まったストックホルム警察殺人課の捜査ストーリー。「ミレニアム」と同じように、事件の背景にスウェーデンが抱える様々な社会問題が織り込まれる。舞台はスウェーデンでも、それは先進国が抱える共通の社会病理であったりするから、どこの国の人が読んでも面白い。
ウィキペディアで調べてみると、ベックものは長編10作だが、そのなかで第一のオススメは。
- 作者: マイ・シューヴァル,ペール・ヴァールー,高見浩
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 1972/07
- メディア: 文庫
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いずれにせよ、この本で「マルティン・ベック」シリーズにハマって、ほぼ全て読んだ。次に印象に残っているのはこちら。
- 作者: マイ・シューヴァル,ペール・ヴァールー,高見浩
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 1973
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もう1作は悩むところ。どれもコンスタントに水準が高く、面白いが、「笑う警官」のインパクトがあまりで、ほかは甲乙つけがたく・・・。で、映画化された作品というと、こちら。
- 作者: マイ・シューヴァル,ペール・ヴァールー,高見浩
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 1982/11
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「マルティン・ベック」シリーズは、現実の社会問題を犯罪の背景に起き、捜査する刑事たちも個性的で、警察の官僚機構に対して複雑な気持ちを持っている。犯罪は摘発しなければならないが、自分たち警察が絶対的な正義の存在とも思っていない。良心も、邪心も、野心もある人間としての警察官が描かれ、良い警官もいれば、悪徳警官もいるし、警官たちは組織の中であがいている。高村薫の「マークスの山」を読んだとき、これって「マルティン・ベック」シリーズじゃない、と思った。ストーリーが似ているというのではなくて、警察群像劇であり、主人公たちの個性、社会問題の織り込み方とか、作品の空気が似ていた。
最後に、どの作品か忘れたが、マルティン・ベック物で印象に残っているエピソードをひとつ。あるアパートで老人が死んでいた。そのアパートにはペットがいないのに、ペットフードの空き缶が散乱していた。なぜか。高齢で困窮した老人は、わずかな年金(か生活保護か)で生きるためにペットフードを食べて暮らしていたというのだ。高度福祉国家というスウェーデンで、こんなことが起きているのかと衝撃を受けた記憶がある。「ミレニアム」の保護観察官もそうだが、制度だけでは救われない。直接的なストーリーとは関係ないエピソードだったと思ったが、捜査の過程で浮かび上がる都市の風景が印象的な作品群。このあたりも「ミレニアム」と共通しているかもしれない。