「小沢一郎」を勉強するために、著書を3冊読んでみました

 いつまでも、どこまでも消えないかに見える民主党小沢一郎氏の影響力。どこがそんなにすごいのか。それを知るには著書を読んでみるのが一番と、3冊ほど読んでみた。
 まずはこちら。

日本改造計画

日本改造計画

 奥付を見ると、1993年5月に出た本だから、自民党を離党する直前、自民党一党支配に終止符を打った細川政権樹立前夜という時期の本。変革の基本として、(1)政治のリーダーシップ確立(2)地方分権(3)規制の撤廃を掲げる。また、5つの自由を提唱し(1)東京からの自由(2)企業からの自由、(3)働きすぎからの自由(4)年齢と性別からの自由(5)規制からの自由を掲げる。バブルが崩壊してから3年ぐらいのときで、経済再建は重要な課題だったわけだが(その問題をいまも引きずっているというのは日本もスゴイ国だが…)、個々で打ち出されたのは、国土の均衡ある発展みたいな考え方で、高速道路、新幹線、国際空港、光ファイバー網の整備。光ファイバーなどは先見性のある意見だが、道路・鉄道・空港は古典的な公共事業拡大型のようにみえる。恩師と仰ぐ田中角栄の「日本列島改造論」のDNAがあるのかもしれない。
 一方、税制については、(1)個人所得税・住民税を半分に、(2)法人税を世界最低水準まで引き下げる、(3)消費税の税率を10%に引き上げる(当時の消費税率は3%)。
 20年近く前の本なので、情勢の変化もあり、この本を細かい部分をとりあげて、変わった、変わらないと批判しても意味はない。むしろ官僚主導から政治主導へ、税制改革などといったテーマを見ると、「変わらない国・日本」に改めて溜息が出てくる。
 小沢氏の考えは「政府委員(官僚)による答弁の禁止」など一貫しており、それはそれで、すごいと思う。ただ気になったのは、政府と党の二本立てで政策調整をすることは複雑で時間がかかる上、内閣の責任もぼけてしまうと「党の重要な役職者を内閣に取り込んでしまう」と主張していたこと。例えば、こんなことを提案していた。

 「与党の重要ポストを内閣に取り込むことだが、イギリスでは、中世以来の重要ポストで現在は名目化している閣僚ポストに、議会運営の責任者や特命事項の担当者を任命する慣行ができている。それを参考にして日本でも、法案について内閣が責任を十分負えるよう、与党側の議会運営の責任者、たとえば幹事長を閣僚にする。それによって、内閣と与党が頂点で一つになり、責任を持って政治を運営できる。」

 重要なことだと思うが、細川政権でも、鳩山政権でも、小沢氏は党側にいて内閣に入らなかった。この理念はどこへ行ってしまったのだろう。自分が首相だったら、という想定で書いたのだろうか。
 ウィキペディアによると、この本は出版当時、70万部を越えるベストセラーになったというが、いま読むと内容自体は「日本列島改造論2.0」といった感じがする。そこが売れた原因であるかも知れないが。

剛腕維新

剛腕維新

 こちらは2003年から2006年まで「夕刊フジ」に連載した「小沢一郎の剛腕コラム」を抜粋・加筆した本。新聞のコラムなので、サッカーや野球の話が出てきたり、政治・経済・外交から社会事件にいたるまで話題は幅広いが、その分、まとまりはない。連載開始当初は自由党の党首で、2003年に民主党に合流し、2006年4月には民主党代表になる。この間ずっと小泉政権が続いていたので、内容も小泉批判に終始しているところがある。
 「日本改造計画」でもあったのだが、この本では「日本人の心の崩壊」に対する批判が激しくなっている。格差社会批判が出始めたこともあるかもしれない。異常な事件が目立つようになったこともあろうだろうし、「夕刊フジ」という媒体の特性もあっただろう。
 イラク戦争への協力が議論になっていた時代でもあり、ここでも「日本改造計画」で主張していた国連中心主義を提唱している。で、読んでいたら、2005年10月の普天間基地移設問題基本合意について、こんな一節があった。

 「米国の機嫌を損ねないように適当に振る舞いながら、一方で沖縄県民にもいい顔がしたい日本政府のいい加減さが、問題をずるずると先送りさせて、日本に対する信頼を損ねてきたのである。」

 いま読むと皮肉な感じがする。
 結論として、野党という立場で絶対的な人気を誇る首相に対峙していた時代の本である、さらにコラム集ということもあり、ここに小沢氏のビジョンなり、思想なりを感じることは難しかった。

小沢主義 志を持て、日本人

小沢主義 志を持て、日本人

 「剛腕維新」の発行が2006年8月で、こちら「小沢主義」が2006年9月。小沢氏の民主党代表就任が2006年4月だから、代表人気を当て込んでの出版だったのかも知れない.で、こちらの本は「日本の若者たちのために、政治論、リーダー論を書いてもらえないか」という要望に応えて書いた本という。字も大きくて、すぐに読めてしまう読みやすい本。
 第1章の「選挙の重さ」で、ドブ板選挙こそ民主主義の原点とする話は、2009年の衆院選勝利に至る教科書かもしれない。しかし、第2章以降、「政治不在の国・日本」「『お上意識』からの脱却」「リーダーの条件」「二十一世紀、日本の外交」「日本復活は教育から」となると、前の2つの本を読んでいると、タイトルから内容の想像がついてしまう。政治資金に関する話は「日本改造計画」や「剛腕維新」には出てくるが、この本になると出て来ない。
 尊敬する人たちの例として福沢諭吉坂本龍馬と来て、次にカルロス・ゴーンが出てくると、えっとなってしまう。確かにビジネスピープルとして優秀なリーダーかも知れないが、一方で格差社会の象徴でもあり、そのあたりをどう整理しているのだろう。表裏一体であったりするのだが。

 ということで、3冊読んでみて、小沢一郎氏のビジョンや思想がわかったかというと…。正直わからなかった…。政権奪取へ向けての本でもあるので、思想まで期待してはいけないのかもしれないが、こんな日本にしたい、という小沢氏のビジョンがわからなかった。最近の小沢氏自身の政治行動をみていても感じるのだが、政権交代も、政治主導も目的達成のための手段のはずなのだが、それ自体が目的と化してしまっている感じがする。特に野党時代の2冊は「ここがダメ」「あそこがダメ」とネガな話ばかり。立場上、それも仕方ないと思う半面、やっぱりビジョンを語って欲しい。部分、部分は語っても、それがトータルな姿として浮かんでこないし、整合性を持っているか、怪しいところもある。
 幹事長を外れて少しは暇になったのだろうし、4冊目を書いて欲しいところ。今度は他人に対する批判、ダメ出し話は一切書かないという縛りで。