ニューズウィークの売却価格は、1ドル。スター記者たちは新天地を求めて移籍ラッシュ

米有力誌ニューズウィークの経営権売却額がわずか1ドル(約83円)だったことがわかった。AP通信が6日に報じた。同誌は米紙ワシントン・ポストが所有していたが、8月に「JBL」「インフィニティ」などの音響各社を経営するシドニー・ハーマン氏(92)との間で経営権売買の合意がまとまった。明らかになった売買条項によると、同誌の買い取り価格は1ドルちょうど。推定1千万ドル(8億3千万円)に達した負債や同誌社員の年金もポスト紙側が負担する。一方、ハーマン氏は、ポスト紙側が求めた(1)同誌社員約300人の大半の雇用を維持し、(2)雑誌発行とニュースサイト充実を続ける、などの条件を受け入れたという。

 ニューズウィークが売却されるというニュースだけでもショックなのに、その売却価格は1ドルかあ。それだけ難しい会社ということなんだろう。負債、年金債務も背負わなければならないうえに、ワシントン・ポストが出した社員雇用の条件も飲んだのか。この厳しいメディア環境の中で、やっていけるのだろうか。インターネットがもたらしたメディア革命の影響もあるし、さらに大変なのは有力な編集スタッフが、この売却話の中で次々と会社を離れたことだ。
 編集長のジョン・ミーチャム(Jon Meacham)は辞任。ニューズウィークを代表するトップ・スター記者で国際版編集長だったファリード・ザカリア(Fareed Zakaria)はライバル誌のタイム(TIME)へ。調査報道のマイケル・イシコフ(Jon Meacham)はNBCニュースに移り、ワシントン支局記者のマイケル・ハーシュ(Michael Hirsh)は高級政治誌「ナショナルジャーナル」( The National Journal)に移籍、『完璧な冷静 オバマ 変革と試練』のメーンライターでもあるエバン・トーマス(Evan Thomas)はジャーナリズムからアカデミズム(プリンストン大学)に転じたという。
 これだけでも相当な顔ぶれだが、行き先は、ライバルのニュースメディアか、大学に転じるという、これまでもよくあるパターン。時代の変化を象徴していたのは、ワシントン駐在のスター政治記者だったハワード・ファインマン(Howard Fineman)が有力ネットメディアのハフィントンポスト(The Huffington Post)に移籍し、『馬鹿(ダム)マネー』の著者でもある金融・経済分野の看板記者、ダニエル・グロス(Daniel Gross)がヤフー・ファイナンスYahoo! Finance)に転じたことだ。これは米国のメディアでも大きなニュースになっていた。ジャーナリストが、急速に存在感を増した新興ネットメディアを移籍先に選ぶ時代が到来した。
 売却価格1ドルに象徴される既存メディアの厳しさ、そしてメディアの主役交代の可能性は、雑誌の編集現場にいる人たちが一番良く知っていたのだな、という気もしてくる。
アメリカ後の世界 完璧な冷静 オバマ 変革と試練 ニューズウィーク日本版ペーパーバックス 馬鹿(ダム)マネー