池澤夏樹『きみのためのバラ』

きみのためのバラ (新潮文庫)

きみのためのバラ (新潮文庫)

 東京、バリ、沖縄、南米、ヘルシンキ、パリ、カナダ、メキシコを舞台に現代人の出会い、孤独、再生を描く、優しさと癒しの短編集。「都市生活」(東京)、「レギャンの花嫁」(バリ)、「連夜」(沖縄)、「ヘルシンキ」、「人生の広場」(パリ)、「20マイル四方で唯一のコーヒー豆」(カナダ)、「きみのためのバラ」(メキシコ)、どれも面白かった。ほとんど全部楽しめたということか。「コーヒー豆」は、レイモンド・カーバーの短編のような味わいだった。面白い短編として唯一あげなかった「レシタションのはじまり」は、ガルシア=マルケスが書きそうな寓話的な話だが、今ひとつ乗り切れなかった。
 しかし、日本人を語ろうとするとき、世界を舞台にしたほうが、その心象風景がくっきりと浮かび上がる時代になったのだな。