百瀬宏、石野裕子編著『フィンランドを知るための44章』

フィンランドを知るための44章 エリア・スタディーズ

フィンランドを知るための44章 エリア・スタディーズ

 フィンランドの歴史、政治、経済、社会、文化について44章にわたって解説した本。明石書店の「エリア・スタディーズ」シリーズの1冊。ひとつの国を多角的に捉えることができる。目次で内容をみると...

I 小国の歩み
 第1章 フィンランド史の展開と地理的状況との関係
 第2章 スウェーデン王国の東の辺境として
 第3章 ロシアの支配と民族の目覚め
 第4章 独立フィンランドと小国の命運
 第5章 第二次世界大戦下のフィンランド
 第6章 現実に向き合った戦後フィンランド
 第7章 「われらは、ここに生きる」
 第8章 北欧とのきずな
 第9章 冷戦終焉後のフィンランド
II 現代フィンランドの諸相
 第10章 フィンランド憲法の歩み
 第11章 フィンランド地方自治
 第12章 スウェーデン語系住民の地位
 第13章 非武装と自治の島々
 第14章 先住民、サーミの人々
 第15章 フィンランドの政党
 第16章 EUとしてのフィンランド
 第17章 フィンランド国防軍
 第18章 フィンランドの産業と経済
 第19章 フィンランドの経済
 第20章 福祉社会の形成と現況
 第21章 フィンランドの教育の現状
 第22章 科学と技術
III 文化としてのフィンランド
 第23章 フィンランド語とはどんな言語か?
 第24章 フィンランド現代文学
 第25章 フィンランド民族叙事詩『カレワラ』の誕生と19世紀フィンランド文学
 第26章 戦争と文学
 第27章 トーベ・ヤンソンの世界
 第28章 ムーミン・ファンの想い
 第29章 フィンランドのジャーナリズム
 第30章 フィンランドの音楽
 第31章 フィンランドの美術
 第32章 フィンランドの建築
 第33章 フィンランドのスポーツ
 第34章 フィンランドの食文化
IV 交流の歩みから
 第35章 フィンランド観光の旅
 第36章 ラムスティット公使とエスペラント仲間
 第37章 「神様の愛を日本に」
 第38章 在日フィンランド人第二世代のアイデンティティ
 第39章 さまざまな地域間の交流
 第40章 フィンランドと私の「出会い」
 第41章 日本でフィンランドを語る
 第42章 日本における『カレワラ』の受容
 第43章 マンネルヘイムのアジア旅行
 第44章 フィンランドと私

 最後の章は、フィンランドに留学したピアニスト、舘野泉氏の寄稿。このほかに、映画「過去のない男」の監督、アキ・カウリスマキや戦時中の学童疎開など8つのコラムが収録されている。さまざまな視点から、フィンランドが浮き彫りにされていく。現地で見たことの意味が、この本を読んで、わかったりしたところもあった。例えば...
 アカデミア書店やドラッグストアのマガジンコーナーで山のような雑誌を見て、その種類の豊富さに圧倒されたのだが、この本によると、フィンランドでは2500もの雑誌が発行されているという。このほかに、英語圏やドイツ語圏の雑誌も並べられていたから、これはすごいはずだ。人口530万人の国なのに...。ホテルのテレビはデジタル化されていたが、フィンランドは2007年に全チャンネルがデジタル化が完了しているという。さすがにIT先進国。
 食文化についても、EUの国際会議の際に、フランスとイタリアの首脳が雑談していて、世界で食事が一番まずい国は英国ではなく、フィンランドだという話をして問題になったというエピソードが紹介されている。これも何となくわかる。ヘルシンキを歩いていても、カフェ文化は感じたが、レストラン文化へのこだわりはない感じがした。ファーストフードはあったが、外食文化の伝統が乏しいような...。家庭料理の国なんだろうか。
 ただ、ひとつわからなかったのは、福祉国家の現状。ヘルシンキの駅前では、寒風吹く路上に物乞いの人たちが必ずいたし、ゴミ箱を漁る老人の姿も何度か見た。ただ、パリの物乞いがイスラム系など人種問題、移民問題を背景に持っているように見えたの対して、フィンランドにはそうしたことは感じられなかった。むしろ、中高齢者が弱者となっている感じだった。治安問題につながっていくような怖さはないのだが、それでも、社会的な格差の拡大は生じていて、どこかで福祉でカバーできない問題が起きているのではないかと感じた。旅行中、そのあたりが疑問として残ったのだが、その答は、この本にはなかった。
 こうした現代社会の問題はむしろ文学作品の中に現れるのだろうか。その意味では、この本で紹介されているカリ・ホタカイネンの『マイホーム』を読んでみたくなった。

マイホーム

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