北朝鮮の韓国砲撃事件をめぐる「傾向と対策」−−欧州メディアは「六カ国協議を利用しろ」と...

 北朝鮮の韓国・延坪島砲撃事件をめぐり、連日、新聞・テレビの報道合戦が続いているが、今回の問題の傾向と対策を自分なりに整理してみると...
 北朝鮮が今回の暴挙に出た理由としては2点。
・米国を協議の場に引きずり出すための瀬戸際外交エスカレーション(北朝鮮は今回の砲撃事件の数日前に、秘密のウラン濃縮施設を米国人科学者に見せ、核開発をしていることをアピールしている)
金正日から金正恩キム・ジョンウン)への移行期にあたり、次期主席となる金正恩の実績作り(威光を高めるデモンストレーション)あるいは、金正恩に対する軍部内の忠誠度競争。
 この二点に集約される。まあ、そんなものかと。後者の論理でいうと、砲撃で米国が協議の場に出てくれば、それも金正恩の功績になる。1と2は絡み合っているのだろう。で、傾向としては、米国、韓国が北朝鮮との対話の場に出ていくまで、暴挙はエスカレーションしていく恐れがある(と北朝鮮は思わせたがる)。
 で、韓国と米国の対抗策は...。これも二カ国には、ほとんど有効な手がないということで(悲しいことに)論者は一致している。韓国も米国も戦争はしたくない。一方、北朝鮮は後がないから、戦争になってもいいと思っている。身動きがとれないのは韓国、米国になる。それを北朝鮮も知っていて攻撃してくるから、たちが悪い。かつてクリントンが検討したように限定的な空爆に踏み切りたいのかもしれないが、それには中国の暗黙の了解が必要になるのだろう。
 そんなこんなで鍵を握るのは中国になる。中国が沈黙しているから、北朝鮮が今回のような事件を起こす背景になっている。中国は前回の北朝鮮魚雷による韓国哨戒艦「天安」撃沈事件でも国連の北朝鮮非難決議に反対した。このときは、北朝鮮が“犯行”を認めなかったわけだが、領海問題はあるものの、北朝鮮の砲撃で民間人にまで死傷者が出たのは明白になっている。それでも、中国がどう動くか、わからないと思っているのは、大きく2点。
北朝鮮がなくなると、中国は直接、米国陣営の国と国境を接することになる。北朝鮮を西側に対する緩衝地帯として置いておきたい。
北朝鮮が崩壊すると、中国に難民がなだれ込んでくる。これを阻止したい。
 要するに、北朝鮮の維持・存続という現状維持が中国の国益ということになる。これが欧米メディアの論点。ミャンマーの軍事政権にゆる民主化運動の武力鎮圧に中国が沈黙したのも、ミャンマーを緩衝地帯として現状維持することが中国の国益になるから、というのと同じ話になる。加えて、なんだかんだいっても中国と北朝鮮は60年前に朝鮮戦争をともに戦った戦友であり、親・北朝鮮の気分と人脈がいまだに残っているようにみえる。
 では、中国には期待できないのか。中国が、新たな超大国としてのブランドイメージと真の国益を考えれば、変わる可能性があるのではないか、というのが英Economistの視点。中国がここでまた北朝鮮の立場にたてば、「中国異質論」に火をつけてしまうだろうし、っ中国の製品のブランドイメージを貶め、最終的には経済問題にまで波及してくる恐れがある。中国だけで北朝鮮経済を支えなければならず、北朝鮮が次に問題を起こせば、今度は中国の共同責任になる。
 そうした正しい方向へ中国が進んでもらうための可能性を論じた英Economistの意見が以下のもの。

So how to nudge China in the right direction? One possibility is the revival of the six-party forum, chaired by China and involving Japan and Russia. Talks stalled after North Korea forged ahead with its nuclear programme. The Kims would regard a revival as a victory. But talks will eventually have to resume if North Korea's nuclear ambitions are to be negotiated down. If they also help persuade China to rein in North Korea, that would be a double benefit.

 中国が議長を務める6カ国協議を交渉の舞台にする。韓国も米国も日本も、不愉快でも席につく。ついた上で言いたいことを言い、北朝鮮を牽制するという方法しかないというのだろうか。ただ、その席では、中国が是々非々で北朝鮮に接することが条件になるのだろうなあ。あるいは、会議で話は進まなくても、今回の問題は中国の仕切りということを明確にする「形」が大切だというのだろうか。
 しかし、この線で行くにしても、米国は共和党が支配する下院議会を抱えて強硬論に傾きがちになるだろうし、隠忍自重を続けてきた韓国も民間人にまで犠牲者が出た今は安易な妥協はできない。日本も拉致問題を抱えている。調整は大変だろうな。中国にしても胡錦濤から習近平への移行期にあり、さまざまな政治勢力がある。だからこそ、中国を議長にして北朝鮮の行動に対する責任を明確にすることに意味が出てくるのかもしれない。そうすれば、北朝鮮も自由には動けなくなるということか。軽挙妄動すれば、中国のメンツをつぶす。形が大事なのか。何だかヤクザの抗争劇みたいだけど。
 もろもろ考えると、北朝鮮瀬戸際外交の危険な「傾向」に対して、とにかく六カ国協議の場を利用しろ、という「対策」は、血で血を洗う何世紀もの闘争を経験した欧州的な現実主義の発想かもしれない。フィナンシャル・タイムズにも同じような論調の記事があった。名を捨て実を取るのか。戦争という道はない以上、頭では、それしか選択肢がないかと思いつつ、やはり謝罪もないまま、テロリストと同じ席につけるか、と思ってしまうなあ。英国人のインテリが米国人をナイーブと言っていたのを思い出す。今回の件についても、英国メディアの視点は冷めていて、北朝鮮問題を考える上での参考になる。