「ソンミ村 虐殺の真実」

ベトナム戦争中、アメリカ陸軍が南ベトナムのソンミ村ミライ集落を襲撃し、無抵抗の村民数百人を殺害、集落を壊滅状態にしたソンミ村虐殺事件ベトナム反戦運動の象徴となり、国外でもアメリカ軍が支持を失うきっかけとなった。ソンミ村の掃討作戦を実行したのはアメリカ陸軍第23師団C中隊で、多くの仲間を解放戦線の地雷や狙撃によって失い、“姿の見えない敵”の攻撃に苛立っていた。1968年3月16日、C中隊の兵士たちは、機関銃を乱射しながらミライ集落を襲い、高齢者や女性、子どもを含む非武装の村民を無差別に殺害し、集落を焼き払っていった。

 ベトナム戦争で起きた米軍によるソンミ村虐殺事件のドキュメンタリー。NHK-BS1で放映していた。事件から40年以上たっているが、当時の米軍関係者だけではなく、ソンミ村で生き残ったベトナム人にも取材し、多角的に事件を描いていく。40年の歳月があってこそ取材できる内容かもしれない。ティム・オブライエンなどベトナム従軍体験を持つ作家も登場する。
 ドキュメンタリーでは、ベトナムの「見えない敵」によって仲間を次々と失い、恐怖と敵愾心から、軍としての規律を失い(ベトナム人女性に乱暴し、そのポニーテールを切り取ってヘルメットに飾っていた兵隊がいたが、上官は何もいわなかった...)、それがソンミ村での無差別殺戮へとつながっていく様子が関係者たちの証言と当時の記録映像をもとに再現されていく。オリバー・ストーン監督の「プラトーン」のような展開。部隊に倫理と規律が失われていくと、部隊の連帯と信頼も消滅してしまう。これも映画と同じ。というか、それがストーンがベトナムで見た現実だったのだろう。
 このドキュメンタリーを見るまでは、中隊を指揮したカリー中尉が「悪の権化」というイメージを持っていたのだが、それほど単純な話ではなかった。出撃前に、中隊はカリーの上官のメディナ大尉から、ソンミ村は解放戦線の拠点であり、民間人は避難して誰もいない、動くものは全て殺せ、との命令を受けていた。それが、上官に気に入れらたいと思っているカリー中尉と、既に殺伐としていた中隊を暴走させる。メディナ大尉自身、負傷して倒れている民間人を射殺するところを目撃されている。事件直後から、解放戦線に損害を与えたと虚偽の戦果報告をするなど、民間人虐殺の隠蔽を図っている。見ていると、主犯はメディナ大尉と思えてくる。おまけに、事前の情報が誤っていて、ソンミ村には解放戦線は存在しなかったというのだから、お粗末の限り。
 人の口に戸は立てられず、噂が流れ、しかも作戦に同行した陸軍カメラマンがすべて記録写真を撮っていて、事件は1年後に発覚する。このとき米国陸軍の行動は立派で、自浄作用を発揮し、事件の全容を調査、把握し、カリー中尉だけでなく、事件の隠蔽に加担した上官全員を軍法会議にかけようとした。しかし、最初に軍法会議を受けたカリー中尉の有罪が決まったところで、全米的なカリー救済の国民運動が起きて、ニクソン大統領が政治介入。カリー中尉は釈放されてしまい、組織的な追及は頓挫してしまう。すでに反戦ムードが強く、ベトナム戦争は国の責任で、個人に責任を押し付けるな、というのが国民の声だったのかもしれないが、陸軍の自浄努力を政治がつぶしてしまう。陸軍の検察官は大統領に抗議の書簡を送ったという。
 一方で、戦場でも空気に流されなかった人もいて、偵察ヘリで虐殺事件を目撃したヒュー・トンプソンというパイロットは、強行着陸し、味方の米軍兵士に銃を向けてまで、生き残りの民間人を救い出した(助けられたベトナム人もインタビューに出てくる。だれに助けられたかは知らないようだが)。トンプソンは帰隊後、上官に虐殺事件を報告するのだが、黙殺されたうえ、その後は危険な任務にばかり送られることになったという。生き残ったからいいが、邪魔者は殺せという映画のような話。
 「プラトーン」でいうと、ウィリアム・デフォー演じたエライアスがヒュー・トンプソンであり、トム・ベレンジャーのバーンズがメディナ大尉といったところ。この大尉は解放戦線の兵士を殺すと、死体にスペードのエースのカードを置いてくるように指示したという。その映像も出てくる。ともあれ、生き残ったベトナム人も、中隊で直接手を下した者も下さなかった者も、心に傷を負っている。カリー中尉は登場しないが、事件から40年後、あるインタビューで「良心の呵責を感じなかった日は1日もない」と語っていたことが紹介される。
 そのほかの上官たちがその後、どうなったのかは、紹介されなかった。メディナ大尉は、どんな人生を送ったのだろう。
プラトーン (特別編) [DVD] 映画で見るベトナム戦争の真実 DVD-BOX 本当の戦争の話をしよう (文春文庫)