帰ってきた江戸絵画 ギッター・コレクション展(千葉市美術館)

アメリカ・ニューオーリンズのギッター・コレクションは、個性溢れる日本美術コレクションのひとつとして知られています。カート・ギッター博士は、1963年から65年までの日本滞在を機に、日本美術の蒐集を始めました。日本美術の持つ「純粋で、シンプルで、素朴な」美しさ、とりわけ墨線の持つ多様な表現に魅せられた彼は、コレクションの中心に禅画を据えました。そして、妻のイエレン女史とともに文人画、円山四条派、琳派、浮世絵、奇想の画家へと幅を広げ、円山応挙伊藤若冲俵屋宗達酒井抱一など江戸時代を代表する画家たちの一大コレクションを築き上げました。2005年に、ハリケーンカトリーナ」でアメリカ南東部は甚大な被害を受けましたが、ギッター・コレクションは奇跡的にもこの被害から守られたのです。この展覧会は、ギッター・イエレン夫妻の所蔵する日本美術コレクションの中から、江戸絵画を中心とする優品を選りすぐり、日本で初めて本格的にその全容を紹介するものです。

 千葉市美術館で「帰ってきた江戸絵画 ギッター・コレクション展」を見る。琳派、浮世絵など多彩なコレクションだが、入り口はまず伊藤若冲から始まる。いまや最もポピュラーな江戸絵画の作家になっているのかもしれない。若冲の「白象図」を見ると、思わず微笑んでしまう。ユーモラスだし、ポップ。現代の作家と言っても通用ししそうな感覚がある。このほかの絵画でも、「洛中洛外図」などの大作よりも、とぼけた味のある仙突義梵の「欠伸布袋図」や中原南天棒「托鉢僧行列図」 のような作品の方に心ひかれる。義梵も南天棒も臨済宗の禅僧。禅を極めた達観した境地から見えた世界なのだろうか。それにしても、ここまでデフォルメ化して描く技法が日本には古くからあったのだな。日本は昔からポップ・カルチャーの国だったのだ。
伊藤若冲大全 死にとうない (新人物文庫) 水墨画にあそぶ―禅僧たちの風雅 (歴史文化ライブラリー)