高橋亀吉『大正・昭和財界変動史』--危機になると、読み返したくなる本

 危機の時代になると、読み返したくなる本がある。高橋亀吉の『大正・昭和財界変動史』も、そのひとつ。東日本大震災が起きた時も、これから何が起きるのか、と思ったときに、まず思い出したのは、この本だった。
 全3巻で、恐ろしく厚いうえに、文体も古い。そして何よりも恐ろしく高い。昭和29年(1954年)に初版。東洋経済が創立115周年記念として復刊したが、1巻2万1000円!全3巻で6万3000円!!。僕は昔、旧版を運良く手に入れることができたが、そのときでも、かなり高くて、買うときに、かなり迷った。しかし、これは生きた経済を知りたいならば、絶対買いの本。買って損はない。第1次大戦の戦争景気に始まり、戦後の不況、関東大震災昭和金融恐慌、金解禁による恐慌、世界恐慌、そして戦時体制へと移行していく日本経済が、様々なデータとともに語られていく。
 構成はこんな具合...

上巻 大正編
 第1章 明治末−大正初期のわが財界の逼迫
 第2章 第一次世界大戦とわが財界の変動
 第3章 欧州大戦の終息と財界の反動
 第4章 欧州戦後の景気勃興
 第5章 大正九年の財界大反動
 第6章 九年反動後の財界整理と不徹底
 第7章 関東震災後の財界の変動
中巻 昭和編(一)
 第8章 昭和2年の金融大恐慌
 第9章 金融恐慌後の財界整理と経済回復難
 第10章 旧平価金輸出解禁
 第11章 金解禁後の経済大恐慌
下巻 昭和編(二)
 第12章 世界恐慌
 第13章 金輸出再禁止の不可避化とその断行
 第14章 昭和七−十年の経済隆興
 第15章 準戦時経済時代並に戦時経済への突入

 高橋亀吉は大正7年(1918年)に東洋経済新報社に入社、昭和2年(1927年)に退社してからはフリーランスの経済評論家として活躍した。官庁エコノミストでも学者でもなく、在野のエコノミストであり、その経済・市場予測の確かさからマーケットの神様でもあった。市場経済を熟知した人がリアルタイムで見た経済の同時代史だけに迫力があるし、それに加えて、この本が何よりも素晴らしいのはマーケット関係のデータが充実していること。
 読んでいると、いまでも参考になる話がいくつも出てくる。とりわけ、財政の問題にしても、金融の問題にしても、デリバティブとか、道具立てはいろいろと新しいものが出てきても、人間の愚行は変わらない。ここで取り上げられているのは、昭和金融恐慌世界恐慌だが、バブルの崩壊、失われた20年など問題点は共通している。哀しいぐらいに。歴史はそのままは繰り返さないかもしれないが、歴史をバカにすると、死者は復讐する。関東大震災の部分を読み返してみたが、反面教師となるような話もある。
 経済やマーケットに関心がある人にとっては必携の本。昔、有名なエコノミストが、経済を語る際の秘密のタネ本として紹介していたこともある。蘊蓄たっぷりに経済を語るには、できるだけ知られたくない本ともいえるかもしれない。
大正昭和財界変動史(中) 大正昭和財界変動史(下)