ジム・ロジャーズ『ジム・ロジャーズが語る商品の時代』

ジム・ロジャーズが語る商品の時代 (日経ビジネス人文庫)

ジム・ロジャーズが語る商品の時代 (日経ビジネス人文庫)

 2004年に書かれた本だが、株式ではなく、商品の時代というところは現時点を見る限り、当たっている。自分の足で世界を回った人らしい投資論。この本にも再三、出てくるのだが、商品というと、商品先物の印象が強く、ハイリスク・ハイリターンで、うかうかしていると身ぐるみ剥がれるという印象があるのだが、冷静に見ると、株式市場と商品市場は負の相関関係にあり、格好の代替投資の対象だという。それをデータで実証したのが『商品先物の実話と神話』(日経BP社刊)だという。読んでいて、最近の商品相場が強いのがわかるし、さらに、ヘッジファンドが代替(オルタナティブ)投資として商品を重視するのもわかる。その意味で、最近の商品マーケットを理解するのに絶好の本。そして、その背景には、中国経済の勃興がある。
 目次で内容をみると、こんな具合...

序 章 商品なんて誰も気にかけない
第1章 次に来るもの−−それはモノ
第2章 「でも、でも………」
第3章 商品市場と向き合う
第4章 商品市場へ足を踏み入れる
第5章 中国の時代−−東方からの風
第6章 安い石油よ、さようなら
第7章 金−−神話か実体か
第8章 鉛の飛行船が空を飛ぶ
第9章 砂糖−−いつか甘い気分に
第10章 コーヒー−−やがて心うきうき
終 章 運は常に、備えを怠らなかった人に味方する

 第6章以降は、個別の商品を解説する。ジム・ロジャーズは最近は金について強気になっているが、この頃は、まだ、いまほど強気ではないのが印象的。執筆から7年近くで、さらに強気になっているのだろうか。執筆当時は、商品という考え方は斬新だったろうなあ。ロジャーズは自分でも、短期取引のトレイダー・タイプではなく、トレンドを読む長期投資タイプといっているが、よく見ていると思う。かなり緻密に、それぞれの商品の需給を分析すべきだと象徴しており、手っ取り早く儲けたい人には、この投資手法はしんどいかもしれない。
 で、印象に残ったところをいくつか抜書きすると。まず第1章のまとめから一部を

●1980年代から1990年代にかけて、商品は下落相場だった。近年ほど商品が−−消費者物価指数や株式・債券といった金融資産に比べて−−安くなったことはほとんどない。
●この長期にわたる商品下落相場で生産能力は大きく低下し、その結果、需給バランスは大きく崩れた。単純にいえば、需要は増加、供給は減少しており、この需給の不均衡が解消するには何年もかかる。
●アジア経済は成長を続けており、あらゆる商品の世界需要は今後も強い。特に中国は、商品の主要輸出国から輸入国へと急速に変貌し、鉄鉱石や銅、石油、大豆、その他の原材料を貪欲に消費している。

 これがベースとなる経済認識。需給がタイトになっている。そして、ポートフォリオとしては...

●歴史的に見て、商品価格の変動は株式や債券、その他の金融商品と負の相関を持つ。株が下がるとき商品は上がり、逆もまた成り立つ。したがって、商品に投資していないならば本当の意味で分散投資しているとはいえない。
●商品は有形資産であり、独自の特性を持つ。信用リスクはない。流動性も高い。商品は世界中の公開市場で取引されており、価格は新聞やその他のメディアで報じられている。
●商品価格は経済が低迷しているときでも上昇しうる。
●商品のリターンはインフレを上回る。
●株価はゼロになることがあるが、商品にそれはない。企業の株式と違い、商品は常に誰かにとって何らかの価値を持つ、実体あるモノなのだ。

 これが投資資産に組み入れるべき理由ということになる。説得力があるなあ。加えて、

●戦争や政治的混乱は、不幸なことだが、商品価格をいっそう高くするだけだと歴史が証明している。

 現在のような不安の時代に合った投資対象なのかもしれない。
 で、商品については、各社から色々な指数が発表されているが、主なセクターは...

 これら互いに異なる商品の構成要素は、結局、同じセクターから選ばれたものだ。エネルギー、金属、穀物、食品・繊維、そして家畜である。商品投資を考えるならば、調べるべきはこれら5つのセクターである。最初は、一つか二つのセクターでチャンスを探し、興味を持った商品一つか二つに絞るなど、控えめなやり方をするといい。

 なるほど。ジム・ロジャーズ自身は、既存の指数に満足できず、「ロジャーズ国際コモディティ指数」(RICI)を開発したという。空売りについては慎重で、

 信じられないほど割高でない限り、空売りはしない。

 空売りで失敗した経験があるからだという。マーケットはロジカルには割高であったとしても、さらなる高みへとオーバーシュートしていくことが少なくない。
 一方、資源国にアプローチする手法もあるが、こんなフレーズも...

 私の見解:あそこ−−中央アジアの旧ソビエト圏の共和国に投資するやつはアホだ。

 ロジャーズはロシアも含めて旧ソ連圏やアフリカへの投資には懐疑的。自分が実際に見て歩いているひとだけに、ギャングのような人間たちが支配するような腐敗した政権はリスクが大きいと判断しているようだ。
 一方、金について...

 コガネムシや金に期待する人たちの考える金価格の光り輝く目標は1980年の過去最高値、850ドルである。そんな価格を見ることは−−経済がひどい破綻をきたし、私たちが皆争って金を買うようにならない限り−−当分なさそうだ。

 現在、金は1500ドル。この観測は外れたような、当たったような。今はジム・ロジャーズも2000ドルまで見ているというようなニュースも出ていた。リーマン・ショックで「経済がひどい破綻」をきたしてしまったとみれば、当たったともいえるかもしれない。こんな一節もあった。

 賢明な投資家なら、いつの日か黙示録の時代がやってくるというだけで金を買ったりはしない。世界中の人−−私も含めて−−がそうしているように、保険のつもりでいくらか持っていればいい。今後10年ほどの間にアメリカや世界で経済危機が起きる可能性がないとはいえない。パニックに陥った世界が、苦し紛れの最後の手段として金に向かうかもしれない。その一方で、商品の世界にはもっと魅力のある投資機会が山ほどある。

 やっぱり、ある程度は読んでいたんだな。砂糖を知るには、ブラジルを知れとか、コーヒーの歴史は危機の歴史で相場は下がりっぱなし。その結果、生産量は増えず、一方で需要が増える状況になっているという話も出てくる。コーヒーが値上がりするのも無理は無いか、という気もしてくる。ともあれ、商品を知ることは世界を知ることで、頭の体操としても面白そう。
商品先物の実話と神話 資産運用における商品投資の有効性について