牧野洋『官報複合体』

官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪

官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪

 いまの新聞が官報みたいだという意味のタイトルかと思ったら、官・報道複合体という意味だった。とすると、官産報複合体といったほうがいいのかもしれない。副題に「権力と一体化する新聞の大罪」。日本の新聞に対する批判は、これまでにもいろいろな人が様々な角度から書いているが、ジャーナリストの具体的な倫理基準やら調査報道NPOやらウェブメディアの「ハフィントンポスト」やら、米国ジャーナリズムの最新事情がわかるところが、この本の最大の特徴であり、刺激的なところ。もとになっているのは「現代ビジネス」のコラム*1で、掲載時に読んだものもいくつかあるが、まとまった形で読むと、筆者のジャーナリズムに対する熱い思いが伝わってくる。
 ただ、時とすると、米国は素晴らしく、日本はダメとばかり言っているようにも見えてしまって、いわゆる「出羽守状態」(「米国では」「米国では」と「では」を連発する人)になりかねない危うさもある。現実には、この本にもあるが、調査報道をNPOにアウトソースしているように、米国もジャーナリズムは岐路に立っている感じがする。今度は、英ガーディアンとか独シュピーゲルとかいった欧州勢(いずれもウィキリークスと連携した調査報道を展開した)、中東のアルジャジーラ、中国で孤軍奮闘する「財新」とか、米国以外の世界のジャーナリズム事情も読んでみたい。
 ともあれ、労作であり、筆者のジャーナリズムに対する熱い思いのこもった本。

*1:牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」 | 現代ビジネス [講談社] => http://bit.ly/wRTnVx