鹿島茂『吉本隆明1968』

吉本隆明1968 (平凡社新書 459)

吉本隆明1968 (平凡社新書 459)

 団塊世代による吉本隆明の解説書。吉本隆明団塊世代のアイドルであり、そのことがわかるようで、わからなかったのだが、鹿島茂氏の吉本書読解を通じて、その魅力と凄さがわかった。ただ、「進歩的文化人」とか、戦後日本社会を席巻した社会主義思想の強さを知らないと、吉本隆明の凄みもわからないのだなと、改めて思った。鹿島氏は、あとがきで「出身階級的吉本論」と書いているが、このあたりを知ると、明治、大正、昭和の社会や精神が見えてくる感じがするし、そこに着眼した吉本はやはりすごい人だったと思う。
 で、『吉本隆明1968』というタイトルからわかるように、この本で読み解く吉本は明治・大正・昭和の日本の本質。20世紀の日本とも言える。平成を吉本隆明は読み解けたのだろうか。このあたりは自分で吉本の本を読み解く必要があるのだな。それと、もう一つ思ったのは、これだけの知性に接し、吉本の本を読み込んだ団塊世代は、どんな日本を作ったのだろう。それが現在なのか、と思うと、複雑なところがある。
 内容を目次で見ると...

第1章 「反・反スタ思想家」としての吉本隆明
第2章 日本的な「転向」の本質
第3章 吉本にとってリアルだった芥川の死
第4章 高村光太郎への違和感
第5章 「了解不可能性」という壁
第6章 高村はなぜ戦争礼賛詩を書いたか
第7章 抒情詩と戦争詩のあいだ
第8章 「大衆の原像」から「自立の思想」へ

 この本を読むと、吉本隆明だけでなく、芥川龍之介高村光太郎の本も読んでみたくなる。