NHK・BS世界のドキュメンタリー「タイタニックの呪い 姉妹船の悲運」

タイタニックが沈没した後、姉妹船ブリタニックが完成した。氷山にぶつかりあっという間に沈没したタイタニックだったが、姉妹船は浸水を防ぐ扉や壁などを増設するなどはしたが、基本設計を変えることなく就航した。建造主のホワイトスターライン社が完成を急いだのは、急増する移民希望者をヨーロッパからアメリカに運ぶためだった。

 タイタニックは1912年4月14日深夜に氷山にぶつかり、翌15日未明に沈没した。ということで、100年記念のドキュメンタリー・シリーズの1本。この番組を見るまで、タイタニックにオリンピック、ブリタニックという姉妹船があるのを知らなかった。加えて、オリンピックは事故続き、ブリタニックは第一次大戦で、あっけなく沈没してしまう。これだけ悲劇が続くのは、この姉妹船の構造自体に問題はなかったのかというのが仮説で、それを地中海に沈むブリタニックの潜水調査と合わせて検証していくという番組。これが面白かった。
タイタニック [DVD] 結論としては、移民急増という需要、そしてライバルのキュナード・ラインとの競争の中で、船主であるホワイトスターライン社も造船会社も、世界最大の客船の建造に取り付かれるのだが、その前人未到の巨大船を支える技術がなかったという話になる。技術は、ハード面の建造技術だけでなく、操船、安全管理というソフト面の技術双方ということになる。
 ハード面で言うと、タイタニックと、その姉妹船は、既存の船をただ大きく引き伸ばしただけだったという。巨大化に伴う問題を考慮していなかった。その点、キュナード・ラインのモーリタニアが最新の造船設計技術を取り入れているのに対して見劣りがしたという。それでいて科学への過信というか、「不沈」とか「絶対安全」とかいう傲慢さがあったという。PDCAというかPlan-Do-Check-Actで、姉妹船1隻ごとに検証し、それを次の船の設計に反映させるということはなかったらしい。
 一方、ソフト面では、オリンピック号は、その巨大なスクリューが作り出す流れで、近くの船を巻き込み、衝突事故を何度も起こしている。タイタニックは救命ボートを積んでいなかったというのも、その一つだろう。タイタニックの後に建造されたブリタニックは救命ボートを山積みにするのだが、沈没の際にエンジンをとめなかったため、巨大なスクリューが救命ボートを巻き込み、死者を出したという。
ブリタニック [DVD] ブリタニックは悲劇の船で完成したときには、第一次世界大戦が始まり、病院船に改造されて使われた。そして、その航海中、ドイツの潜水艦Uボートが敷設した機雷に触れて爆発、短時間のうちに沈没してしまう*1。同じように機雷で損傷した病院船でも助かったものがあるから、ブリタニックが脆かった背景には、タイタニックでも問題になった鉄板を接続するのに使われていたリベットの強度の劣化、北大西洋用に作られた船だったので地中海では船内が暑く、規則に反して舷窓が開け放たれていた(当然、水が入る)などといった問題もあったという。
 一方、タイタニックとブリタニック双方の沈没に遭遇し、助かった看護師の女性がいるなど、世の中、小説より奇なり、だなあ、というエピソードも紹介される。タイタニックの沈没の後も船会社のホワイトスターラインが存続し、姉妹船のブリタニックを建造したということも知らなかった。沈没事故で(おまけに社長自身は逃げたわけだから)倒産したのかと思っていた。もうひとつ、大西洋航路で競い合っていたキュナードラインとホワイトスターラインだが、キュナードラインは英国政府の支援を受けた会社だったという。というと、ホワイトスターラインは一種のベンチャーだったのだろうか。そう考えると、タイタニックは、起業家精神の夢と闇の双方を象徴する存在だったようにも見えてくる。
★オリンピック (客船) - Wikipedia => http://bit.ly/HXJwRK
タイタニック (客船) - Wikipedia => http://bit.ly/HXJDgf
★ブリタニック (客船・2代) - Wikipedia => http://bit.ly/HXJEAT

 ※ この本の著者もインタビューを受けていた

*1:沈没当時は爆発の原因を特定できず、Uボートによる魚雷攻撃ではないかといみられていたという