古賀茂明『日本中枢の崩壊』

日本中枢の崩壊

日本中枢の崩壊

 いまは大阪府市統合本部特別顧問としても活躍する古賀氏が経済産業省大臣官房付のときに書いた話題の書。既にいろいろなところで取り上げられ、話題になり尽くした本だが、へそ曲がりの自分は世間の熱が冷めた頃に読みたくなる。ただ、この本の場合、出版から1年経っても、平積みしている書店もなお目立ち、その熱は変わらないのかもしれない。実際、指摘されている問題は今の問題。日本はまさに官治国家なのだなあ、と思う。官僚中華主義で動いているのだなあ。そして、民主党政権は野田政権になって、さらに拍車がかかっているのかもしれない。暗澹たる気持ちになる。
人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫) 敗戦真相記―予告されていた平成日本の没落 官僚の問題は古くて新しい問題。敗戦直後に書かれた永野護氏の『敗戦真相記』のなかでも、今後の問題は官僚と指摘されている。また、星新一が父、星一の製薬会社が官憲に追い詰められていく様を描いた『人民は弱し 官吏は強し』にしても、星新一には珍しくノンフィクションの直球で、真正面から官僚問題を糾弾する本。戦前の話だが、その体質が戦後変わったようにも見えない。古賀氏が指摘する官僚の問題は、まさにいま起こっていることを具体的な例をもとに展開されるだけに、途中、読んでいて、つらくなる。それが今の現実なんだけど...。
 よく偉い人たちは(エラソーなヒトたちか?)、最近の日本は衆愚社会だとか、ポピュリズムだとか言うが、より深刻な問題は、エスタブリッシュメントやエリート層の劣化のように思えてくる。ノーブレス・オブリージュというか、権力を持っていることに対する畏れがなくなってしまっているように見える。私利私欲に走ることを恥じなくなってしまった。結局のところ、組織も社会も、頭から腐っていくもので、末端が腐っているように見えるときは頭が腐臭を放っているからと考えたほうがいいのだろう。
 などなど、いろいろと考えさせる本。
 で、最後に目次で内容を見ると...

序 章 福島原発事故の裏で
第1章 暗転した官僚人生
第2章 公務員制度改革の大逆流
第3章 霞が関の過ちを知った出張
第4章 役人たちが暴走する仕組み
第5章 民主党政権が躓いた場所
第6章 政治主導を実現する三つの組織
第7章 役人ーーその困った生態
第8章 官僚の政策が壊す日本
終 章 起死回生の策
 補論ーー投稿を止められた「東京電力の処理策」

 増税が、民主国家を守るためなのか、官治国家制を守るためなのかーーこの本を読むと、後者と言いたくなる。また、厚労相失格と言われた長妻昭氏は、官僚・報道連合軍によって作られたイメージによって追われたと見ている。情報操作が激しくなり、何が本当か、わからない時代になってきたなあ。しかし、そのために何が真実か、わからず、議論もできない状況になってしまい、それが原発の再稼働を含め、官僚、民僚*1。たちのクビを締める結果となっているのは皮肉だなあ。でも、官僚、民僚は衆愚社会だからと思っているんだろうけど。
 ともあれ、ベストセラーになっただけの理由がある刺激的な本。

*1:民僚=電力など巨大企業・大手金融機関の官僚みたいな経営幹部や労組幹部たち。大手メディアもこの範疇に入り始めているのかも