福岡アジア美術館

 知らない街に行ったら、美術館を覗くことにしているのだが、福岡市に行って選んだのが、福岡アジア美術館。サイトを見ると、こんなコンセプトの美術館...

福岡アジア美術館は、アジアの近現代の美術作品を系統的に収集し展示する世界に唯一の美術館です。それらの作品は、西洋美術の模倣でもなく、伝統の繰り返しでもない、変化しつづけるアジアの「いま」を生きる美術作家が切実なメッセージをこめて作り出した、既製の「美術」の枠をこえていくものです。広範で質の高いアジアの近現代美術作品の展示は、世界のどの美術館とも異なる独自性と魅力を持っています。

 アジアの古美術ではなく、近現代美術というところが心を捉えた。で、訪ねてみて、これは当たりだった。先日、森美術館でみた「アラブエクスプレス」も面白かったが、欧米とは違う感性の近現代アートが面白い。海を越えれば、すぐに韓国・釜山というアジアに対する日本の入り口とも言える福岡に、アジアというコンセプトの美術館があるのは意味もあるし、そこに目をつけたセンスもいい。アジアの現代アートはこれからもっと面白くなるだろうし、それはデザイン力を飛躍させるための基礎研究みたいな役割も果たすことになるんだと思う。
 アジアギャラリーを見たのだが、今は「バリ今昔物語」*1、「演じる人々――芝居・役者・大道芸」*2などの企画と常設展示があった。バリ島のネカ美術館も感動したが*3、ここの「バリ今昔物語」では、そこで見たものとも違うバリの生活と性を描いた作品があって、興味深かった(作者の名前を覚えきれなかった。やはりメモしないとダメだなあ)。
 アジアと一言でいっても、実際には様々な国があり、その文化的な背景も違う。ただ、現代アートに入ると、共通するのは、自分たちの中に入ってきた欧米文化と、どう向き合うか、というところにあるように思える。アートの技法としては濃厚に欧米を中心としたグローバリズムの影響を受ける。そのうえで、自分たちの文化、生活、社会をアートの中に、どう取り込むのか、アーティスト自身が問われることになる。
バリ、夢の景色 ヴァルター・シュピース伝 その意味で面白かったのは、中国、韓国、インド、タイ、ベトナムインドネシア(バリ)などは、アジアとしての近現代アートの主張が見えるのだが、(展示物を見る限り)フィリピンにはそうした主張が希薄で、欧米文化の中に取り込まれてしまっている感じがした。技巧的には優れていても、そこに、もうひとつインパクトがない。自分たちの文化的ルーツにどれだけの自信を持っているかどうかが、現代アートの作品が発する力に強く影響してくるように思えた。
 欧米の技巧を吸収するうちに、技巧だけに終わってしまい、テーマも欧米的な視点になってしまい、「先生」である欧米を仰ぎ見るような感じになってしまいかねない。これは明治期のアートも同じかもしれないなあ、などとも考えてしまう。そう考えると、バリにとっての幸福は、バリの文化を評価する西欧人がバリの芸術活動を支援したことだと思う。西欧に対するコンプレックスを持たずに、西欧的な手法に刺激を受けつつ、アートが進化していった感じがする。
 アジアの様々な国のアートを眺めながら、美術館を歩いているうちに、いろいろなことを考えるきっかけを与えてくれることも、この美術館の楽しみ。アジアの場合、やはり欧米文化とどう向き合うかということは大きなテーマなのだなあ。欧米に憧れながら、そこに同化できるわけでもない。自らの文化・社会に対する誇りと同時に、後進性に対する嫌悪もある。それら全てがアートに出ている。面白いなあ。
 で、この夏、福岡に行く人にとって、この福岡アジア美術館がお薦めなのは...

福岡市では7・8月に<クールシェアふくおか>を実施し、公共の施設を利用しやすくします。その一環として、福岡アジア美術館ではアジアギャラリー、コレクション展の観覧料を7月1日-8月31日まで無料にいたします。

 そう。8月31日まで、アジアギャラリーは無料なのです。これは行かない手はないなあ。異文化空間に身をおくことは何とも楽しいことです。冷房もあるし...。
福岡アジア美術館・公式サイト => http://bit.ly/M0QWS2

アジアの美術―福岡アジア美術館のコレクションとその活動

アジアの美術―福岡アジア美術館のコレクションとその活動

*1:「バリ今昔物語」 - 福岡アジア美術館 => http://bit.ly/M0Md2M

*2:「演じる人々――芝居・役者・大道芸」- 福岡アジア美術館 => http://bit.ly/O7CVWZ

*3:ネカ美術館(バリ島) Neka Art Museum - やぶしらず通信 => http://bit.ly/M0R7N6