ダークナイト・ライジング

 現在公開中の映画で最大の話題作。ダークナイトバットマン)3部作の完結編であり、「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督の最新作。上映時間2時間45分という超大作ながら、怒涛のストーリーテリングで、あっという間に終わってしまう。ただ、「バットマン・ビギンズ」「ダークナイト」を引き継いだストーリーだけに、前2作品を見ていないと、話がわかりづらいかもしれない。それでも、映像には圧倒されてしまうだろう。
99%の反乱?ウォール街占拠運動のとらえ方? そして、クリストファー・ノーラン監督の映画だけに、映像が斬新であるだけではなく、キャラクター、ストーリーも尋常ではなく、単純なアクション映画に終わっていない。1%の富裕層が繁栄を謳歌し、99%が厳しい生活を送る現在の社会に対する怒りに乗って、テロリスト*1は社会を徹底的に破壊、無秩序化しようとする。ゴッサム・シティはニューヨークそのものとして描かれ、ウォール街占拠運動(99%の反乱)に象徴される時代の気分が映画の背景をなしている。そして、この映画のテロリストの恐ろしさは、その行動が99%を代弁しての行動ではないこと。悪役のベインたちは「ブラック・マンデー」のような政治的な主張を持ったテロリストでもなければ、「ダイ・ハード」のようにカネ目当ての犯罪者に堕落したテロリストでもない。純粋に社会秩序の破壊だけを目的にしており、絶望から生まれた虚無のテロリストであること。ニヒリズムのテロリストたちであり、何の価値も認めず、求めず、社会に対する復讐、破壊だけに目的を置く。カネも支配も自分の生命すら目じゃない。恐怖だけを求める。
バットマン [Blu-ray] こうした犯罪者像の設定は、きわめて21世紀であり、恐ろしくもある。20世紀のティム・バートン版の「バットマン」では、犯罪は快楽であり、ゲームであり、反抗であったりしたが、21世紀のクリストファー・ノーラン版の「バットマン」シリーズが最後に描いた犯罪は虚無の暗黒の中にある。その背景には、貧富の差が永遠に解消されない世界、一度、犯した過ちがデータとして永遠に記録され、逃れられない社会ーーなどなど閉塞状況に陥った絶望の時代にあるという認識がある。まあ、それでも希望を持って戦い続けることが大切であることがメッセージでもあるのだが、時として、ダークサイドの描写が輝きを持ってしまったりする。
 まあ、そんな面倒くさい話を抜きにしても、アクション場面のスピード感など圧巻。見ているだけで、面白いし、アン・ハサウェイのアクションシーンも一見の価値があるでしょう。
バットマン リターンズ [DVD] 俳優陣は、3部作に共通するのは、クリスチャン・ベイルゲイリー・オールドマンマイケル・ケインモーガン・フリーマン。役者が揃っているので、このあたりは鉄板。第1作に出ていたリーアム・ニーソンも出てくる。この3部作では新たなキャラクターとして登場したキャットウーマンに、アン・ハサウェイキャットウーマンというと、ティム・バートンの「バットマン・リターンズ」のミシェル・ファイファーで決まりかと思ったら、ハサウェイのキャットウーマンも良かった。全く違うキャットウーマンで、魅力的。映画を支えている。
インセプション [Blu-ray] ノーラン監督は「インセプション」の俳優陣がお気に入りの様子で大きな役で起用されていた。正義感の強い若手警官に、レオナルド・ディカプリオの助手を演じていたジョゼフ・ゴードン=レヴィット。究極の悪役、ベインにトム・ハーディ。主人公の会社の女性重役に、ディカプリオの夫人役だったマリオン・コティヤール。さらに、人民裁判の判事をしていたのは、キリアン・マーフィだった。
 ともあれ、映像、ストーリー、キャラクター設定、そして俳優まで楽しめる映画。ただ、話がもとに戻ると、前の2作品を見ていないと、よくストーリーがわからなくなってしまう人もいるかもしれないので、見ていない人はできれば、見ておいたほうがいいだろう。そこまでして見る気がない人は、まあ、そうなんでしょう。
 いずれにせよ、こうして長々と書いてしまいたくなってしまうインパクトを持ってしまう映画なのです。

バットマン ビギンズ [Blu-ray]

バットマン ビギンズ [Blu-ray]

【初回生産限定スペシャル・パッケージ】ダークナイト(2枚組) [Blu-ray]

【初回生産限定スペシャル・パッケージ】ダークナイト(2枚組) [Blu-ray]

ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

*1:この映画の悪漢たちは犯罪者というよりもテロリストといったほうがいい