小林リーデルマン淳子、吉田右子、和気尚美『読書を支えるスウェーデンの公共図書館』

読書を支えるスウェーデンの公共図書館: 文化・情報へのアクセスを保障する空間

読書を支えるスウェーデンの公共図書館: 文化・情報へのアクセスを保障する空間

 北欧は気になる存在で、図書館にも関心がある。それが融合したテーマで、巻頭にある北欧デザインのスウェーデンの図書館の写真にも惹かれ、読んだ本。副題に「文化・情報へのアクセスを保障する空間」。子どもから社会人、そして障害者、移民・難民、少数民族にも配慮した教育の社会的インフラとしての図書館という話だけでなく、電子書籍の問題や市民サービス向上のため地下鉄構内に設置された図書館などといった話が興味深かった。
 目次で内容を見ると...

序 章 なぜ、スウェーデンは図書館を大事にするのか
第1章 スウェーデン公共図書館サービスの基盤ーー制度・歴史・法律
第2章 スウェーデン公共図書館の実際ーーサービス・プログラム・施設
第3章 スウェーデンの小さな図書館の物語
第4章 スウェーデン公共図書館における児童サービスと児童図書
第5章 スウェーデン公共図書館における多様な利用者へのサービス
第6章 スウェーデンの読書事情と出版事情
終 章 文化の格差を図書館が埋める

 で、いくつか、興味深かったところを抜書きすると...
 まず電子書籍論争...

 図書館の関係者はこぞって、印刷された図書と同様、電子書籍に関しても図書館の社会的意義に照らしあわせて利用者への無料貸出が認められるべきだ、と主張した。一方、出版関係者は、電子書籍マーケットにおいて図書館は重要な顧客であり、1冊の本が無制限に図書館で貸し出されることになれば、電子書籍を買って読もうとする人は誰もいなくなってしまう、と反論した。この議論を通じて、出版業界と図書館界電子書籍に対する考え方には大きな隔たりがあるという事実が浮かびあがった。
 図書館界では、電子書籍を知識や情報をたくさんの人に提供する可能性をもつ有望なメディアと見ている。しかし実際には、電子書籍の貸出には経費がかさむことが電子書籍導入のハードルとなっている。たとえば、Elib(イーリブ)と契約した図書館は、電子書籍が1回貸し出されるごとに20クローナ(約240円)の支払い義務が生じることになっている。この20クローナの内訳であるが、10クローナ(約120円)はElibから出版社へ、残りの10クローナはデジタル著作権管理(Digital Rights Management: DRM)の費用に当たられる。

 なるほど。書籍貸出ごとに課金されるのでは、図書館側は予算が組みづらいなあ。貸出数の上限を決めるか、一部、利用者に負担を求めるか、という話になってしまいそうだが、後者の場合は、電子書店と変わらなくなってしまう。それにスウェーデンの場合、「現行の図書館法は、図書館の利用に関しては無料を謳っているため、利用者から貸出料金をとることはできない」という。一方、出版社側としては「課金」制は譲れないだろうなあ。
 そして、こんな話も...

 図書館側が貸出料とともにもう一つの問題として指摘していることは、電子化されているにもかかわらず、図書館での貸出が認められていないコンテンツが存在することである。図書館で借り出せる電子書籍のタイトルは、個人向けに売り出されているタイトル数のおよそ半分でしかない。しかも、どの電子書籍を図書館での貸出用とするのかについては、電子書籍の供給側が決めているという事実がある。
 図書館側はこの点について、社会的に生産された知識を平等に利用者に分け与えるという図書館の理念が、民間企業の経営方針によってゆがめられていると主張している。だが、電子書籍の配信側はこの批判に対して真っ向から否定し、むしろ、いかにして図書館に電子書籍を流通させていくのか、そのビジネスモデルを真摯に模索しているのだと切り返しており、両者の溝が深いことが明らかになった。

 図書館の理念と出版社の経営の対立だからなあ。特に、ただでさえ、出版社は苦しいのだろうし。この問題は世界共通かも。知的資産は誰のものか、知的活動をどのように経済的に支えるのか、という話なんだろうなあ。
 もうひとつ、北欧らしいなあ、という話...

 「自分でできることは何でも自分でする」というのが北欧流なので、資料の貸出と返却は、専用の機械を使ってセルフサービスで行うことが原則となっている。予約した図書はまとめて所定の書架に並んでいるので、それもセルフサービスでピックアップして、機械で貸出手続きをする。だから、司書は、資料の貸出にわずらわせることなく、利用者からの質問や相談事にゆっくりと付き合うことができるのだ。

 北欧は人口が少ないためか、ともあれ、人手をかけないことを原則にしているように思える。以前、フィンランドに行った時も、地下鉄の駅には改札にもホームにも駅員は見えないし、トラムでも切符のチェックはなかった。そうしたものを見ていると、スウェーデンの図書館のセルフサービス方式というのもわかる。でも、本が紛失したりしないのかな。図書館の本を返さなかった場合は、超高額の罰金とか、そういうシステムなのだろうか。
 最後に、ストックホルムの地下鉄図書館の話...

 ホーグダーレン図書館は2009年に駅構内に移転し、リニューアルオープンをした。駅の改札口を出たところにあるエスカレーターを上ると、そこはもう図書館の入り口である。
 スウェーデンの図書館としてはめずらしく年中無休のこの図書館は、入り口の前に設けられた広めのスペースがラウンジになっている。開館は朝10時であるが、ラウンジは平日の朝7時(土日は朝9時)から開いている。グリーンを基調としたラウンジには、ゆったりとしたソファ、図書館登録者が自由に使えるコンピュータ、「メディアジュークボックス」と名付けられた映画や電子書籍の貸出機器が置かれている。持参したUSBメモリーをこの機器に接続し、ユーザーIDとパスワードを入れるだけでコンテンツのダウンロードがはじまる。
 また「世界各国の雑誌」と書かれたコーナーでは、図書館が契約している雑誌と新聞のデータベースへアクセスが自由になっている。図書館が開いていない時間でもラウンジの機器類を利用することができ、利用者には好評である。

 この図書館の写真も紹介されいているが、なかなか良さそう。図書館先進国のひとつと言っていいんだろうか。ともあれ、図書館の風景も写真で数多く紹介されており、興味深かった。