岩田規久男『日本銀行 デフレの番人』

日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)

日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)

 つい先日、日銀副総裁に就任した岩田規久男氏の白川日銀政策批判とデフレ脱却へ向けてのインフレ目標導入論。2012年6月の出版だが、これから、日銀の金融政策転換によって、どんなことが起きようとしているのか、理解するのに最適の本だろう。今のところ、安倍政権の誕生でインフレ目標論が動き出したことで起きている円安・株高の流れなど、マーケットは、この本に書かれているような展開になっている。こうしてみると、これまで金融政策の正統派として日本を支配していた「日銀理論」というのは何だったのだろうかと考えてしまう。インフレ・ターゲティング政策にしても、まだ始まろうとしているところで、結果は出ていないわけだが、「日銀理論」は十数年にわたって結果を出せなかったわけだし、よく言えば「頭の体操」、悪く言えば、官僚の言い訳理論のように見えてしまう。この本のとおりに効果をあげられるのかどうか。まあ、バブル崩壊後の惨状を考えると、何もしないよりは遥かに良いのだろう。今のままでは座して死を待つような状態だったからなあ。
 で、目次で本の内容を見ると...

第1章 日銀理論の誤りを実証した「目処」
第2章 惨めな日銀の成績
第3章 日銀理論−−デフレの責任は日銀にはない!?
第4章 なぜ日銀の金融政策では、デフレを脱却できないのか
第5章 なぜ、インフレ目標政策は物価安定に成功するのか
第6章 日銀にインフレ目標の達成を義務付けよ
第7章 こうすれば、デフレを脱却して財政再建ができる

 この本で興味深いのは「おわりに」。この本の内容を自民党の会合で説明したところ、元大臣に?否定?された話が出てくる。この話、安倍政権にも共通する話のように思える。インフレ目標論など、バーナンキFRB議長をはじめとした欧米の中央銀行がとっている量的緩和政策の意味を理解しているのは安倍首相だけのように見える。他の閣僚はどこか半信半疑のようで、特に麻生財務大臣などはインフレ目標政策に懐疑的なことが言葉の端々に感じられる。デフレ脱却のための金融政策を貫徹できるのかどうか。最大の不安要因は内閣の中にあるのかもしれないなあ。安倍首相の健康・気力が衰えると、元の「日銀理論」に押し戻されてしまうのではないかという、そこはかとない不安があり、それが最大のリスクなのかもしれない。そのときは、円高・株安に振れるんだろうなあ。とりあえず、岩田副総裁には頑張って欲しいものです。現実にどう着地させるかも含めて、大胆かつ柔軟に。