横山秀夫『64(ロクヨン)』

64(ロクヨン)

64(ロクヨン)

 横山秀夫のベストセラー警察小説。64とは、小説の舞台となるD県で昭和64年に起きた未解決誘拐殺人事件。過去と現在、東京(中央)と地方、キャリアとノンキャリ、刑事と警務、警察と新聞、親と子、夫と妻が重層的に絡み合いながら、展開していく。このあたり、横山秀夫が得意とするところで、読み始めたら、最後ま止まらず、一気に読んでしまう。ベストセラーになったことがよくわかる。主人公は県警の広報官だが、地方紙の記者出身の作家だけに、警察、新聞、そして、それぞれの組織で生きる人間の鬱屈と矜持にリアリティがある。
 しかし、組織と人間、家族と人間という問題は不変で、読んでいると、何となく山本周五郎の小説を思い出してしまった。組織と人間、中央と地方、階層化された上司と部下、このあたりの問題って江戸時代と変わらないのかなあ。最近、話題の超大人気ドラマ「半沢直樹」にしても、構造は時代劇みたいな感じがする。耐えて、耐えて、一転、悪役が「へ、へぇー」と土下座する構図は「水戸黄門」だなあ。印籠じゃなくて、もっと知恵は使っているけど。この時代劇的に図式化された世界が、シナリオの力によるものか、池井戸潤の原作によるものなのか、わからないけど、現代の日本人の心情というのは、やっぱり江戸時代がに形成されたんだろうか−−。とか何とか、直接関係ないことも考えてしまったが、横山秀夫の「64」、推理小説として楽しめました。