バラク・オバマ大統領 Kindle Singles インタビュー

バラク・オバマ大統領 Kindleシングル・インタビュー

バラク・オバマ大統領 Kindleシングル・インタビュー

 アマゾンのフルフィルメントセンターを訪問したバラク・オバマ米大統領を、Kindle Singles(アマゾンの電子小冊子コンテンツ)がインタビューしたもの。これを読んでも感じるのだが、オバマ大統領は知性的で、現状分析に優れている人物であるということ。しかし、これは良くいえば、現実の壁の厚さの前で苦悩する理想家、悪くいえば、言葉ばかりが走る評論家という評価にもなる。このところ、外交も内政も行き詰まっているように見えるが、これは大統領2期目でレイムダック化しているところもあるのかもしれないが、それ以上に、オバマ大統領の個性がもたらしているところもありそうな感じする。ともあれ、このインタビュー、現役の大統領が診断した米国社会像という点で面白い。
 で、順不同で、印象に残ったところを抜書きしてみると...
 まずインタビュアーのデイヴィッド・ブルームの前書きから

 インタビューの最後、大統領は背後の壁に掲げられているAmazonのリーダーシップ理念に目を留めた。「間違いを素直に認めよう」、それを声に出して読んでから、「そうだな......多分そうなんだろうな」とつぶやいた。

 トップリーダーの孤独感がみえてくるような話だなあ。どの決断が、胸に去来しているのだろう。
 オバマ大統領自身の発言から拾うと...

 私たちはこれまで深刻な景気後退を経験してきたけれど、厳しい時代だからといって必ずしも良い政治が生まれるわけではない。時には悪い政治を創出してしまうこともある。圧力団体は献金によって特権的待遇の獲得を図るし、メディアの見解はばらばらになってしまった。そんなことが重なったせいで、政党は過去のどの時代よりも分裂している。共和党ではいままさに変化が進行しているよね。彼らはこれまで、時代の変化や人口動態の変化に適応してこなかったんだ。その姿勢が時には「妥協」を汚い言葉と見なす政治に反映されているし、少なくとも現代のアメリカ政治ではかつてなかったような瀬戸際政治を招いてしまった。

 米国では現在、議会で予算が決まらないために、政府機関が一部閉鎖されるという異常事態になっているが、それも、こんな理由からというのが、オバマ大領の言い分なのだろうなあ。
 ウォーレン・バフェットが尊敬される理由について...

 ウォーレンは昔ながらの価値観を体現しているからだ。「なるほど、私は資本主義に明るい。金儲けも得意だ。でも、稼いだお金の多くは社会に還元したい。苦しんでいる人たちより多少高めの税金を支払ってもかまわない。だってそうだろう。私の成功は、この国の制度や文化やインフラによってもたらされたのだからね」と考えている。話足も同じように考えて育った。ミシェルもそうだ。親の世代の人たちもほとんどが同じように考えていたと思う。

 なるほどなあ。強欲資本主義の前の時代。経営者や金持ちが傲慢になる前の時代ね。
 で、欲望をこらえられなくなった一因...

 きっと私たち全員に、欲しいのに手が届かないものはあったのだろうね。でも、気づかなかった。いまになって気づくようになったのは、文化がシフトしたからじゃないかな。私たちはいまの子どもたちと違って、持っていないものを見せつけられたわけではない。金持ちや有名人のライフスタイルを垣間見る手段はなかった。

 いまはテレビに加えて、インターネットがある。
 現代米国の経済・社会問題の淵源について。なんで、こんな国になったのか。

 どこで間違ったのかといえば、経済がもたらす恩恵を評価するための焦点がずれてしまったのだと思う。本来、経済の成長は広く行き渡り、誰もが機会を与えられるべきなんだ。ところが「勝者独り占め」の経済へと次第に偏ってしまった。ここでも原因は技術革新とグローバル化で、その恩恵に預かれるのはトップの一握りだけになってしまった。大勢の中間層や、中間層を目指して頑張っている人たちは、どんどん厳しい状況に追い込まれている。

 そうなんだようなあ。経済成長の恩恵がみんなに行き渡るという社会ではなくなってきた。日本では、すぐに米国化といわれるが、米国だけじゃなく、どこの国でも共通の現象じゃないかと。「原因は技術革新とグローバル化」で、これはどの国にとっても同じだから。そこで、「反技術革新」「反グローバル化」の機運が盛り上がったりするわけだけど...

しかし、ここで私たちは、古き良き時代に二度と戻らないという現実を認めなければいけない。グローバル化をいきなり消滅させるなんて無理だし、技術をすっかり排除することもできない。(略)それが現実なら、どこに新しい機会があるのあろう。新しい産業はどこにあるだろう。そんな産業に対して国民をどのように準備させればよいだろうか。大層なものはいらない。ほんの少しだけ、本当に重要な変化を政府の政策に加えれば、それだけで状況は飛躍的に改善される。

 問題認識は説得力があるのだが、答えの方は難しいなあ。オバマは新しい技術の習得の重要性を強調したりしている。また、カネの力で政治を支配しようとする産業界、富裕層、メディアに対抗し、コミュニティが再活性化する手段としてSNSなどのテクノロジーに期待している。SNSは自分の選挙戦でも積極的に活用していたらかなあ。
 ともあれ、オバマ大統領が米国の問題をどう認識しているのか、知るのに良い本でした。無料コンテンツですし...。