若杉冽 『原発ホワイトアウト』

原発ホワイトアウト

原発ホワイトアウト

 匿名の現職官僚が書いた本として話題になっているが、確かに一気に読んでしまえる面白さ。近未来ドキュメントというか、シュミレーション小説というべきか。電力、経産省、内閣、政党、メディア−−原発再稼働に向けての動きに極めてリアリティがある。と同時に、面白がっているばかりでは東電福島第1原発の悲劇が繰り返されることになるのかもしれないと慄然たる思いにさせられる。小説形式だからこそ書ける政官財複合体の行動分析であり、日本の権力の生体解剖となっている。古賀茂明氏の『日本中枢の崩壊』の小説版という感じもする。第2の原発メルトダウンの描写はどこか筒井康隆を思わせる。危機管理のドタぶりは喜劇タッチなのだが、現実になったときには、こんな会話が飛び交うのかもしれない。巻頭、「歴史は繰り返す、一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」というマルクスの言葉で始まるが、そうなんだなあ。
日本中枢の崩壊 (講談社文庫)