行人坂の魔物――みずほ銀行とハゲタカ・ファンドに取り憑いた「呪縛」
- 作者: 町田徹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/10/31
- メディア: 単行本
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そして本題のローンスターをめぐる事件。こちらは事実は小説よりもドラマチックというか、「半沢直樹」「ハゲタカ」を思わせるような展開。創業一族の内紛、銀行・ファンドの裏切り、そして創業家の助っ人が登場しハゲタカ・ファンドに一泡吹かせる−−一連の事件に巻き込まれた当事者たちにとっては大変な話で、ハゲタカ・ファンドにまさに身ぐるみ剥がれたようになってしまう人も出て来るのだから、面白がって読んでいては失礼なのだが、経済小説を読んでいるような感じがしてくる(銀行には半沢直樹のような人はいないし、話は現在進行形でもあるが)。一方で、この土地をめぐっては、バブル期を含め大手銀行は何度も焦げ付き、事件に巻き込まれているわけで、その学習効果のなさにも驚く。ある大企業の役員さんが「失敗した人を切ってしまって、それでおしまいにしてしまうと、失敗の経験が蓄積されずに、何度も同じ失敗をすることになってしまうんだよね」と言っていたのを思い出した。
この本、東京の歴史を知る上でも面白いし、ハゲタカ・ファンドや銀行の行動様式を知る上でも参考になる。企業の興亡、特に同族経営の継承の難しさなどを学ぶこともできる。さらに金融機関だけでなく、企業で投融資、開発プロジェクトを担当している人は、調査がいかに重要かを実感するだろう。間に入った銀行、証券がいかにビッグネームで、格付機関がどんなに良いレーティングをしていても、当てにはならない。それなりの資金を出すのだったら、自分たちで調査しなければならない。当たり前のことだけど、その大切さを教えてくれる本でもある。
ともあれ、読み始めたら、一気に読んでしまう面白く、刺激的な本でした。
目次で内容を見ると...
この話、目黒雅叙園から始めても良かったのだろうが、その前段として第1章の歴史を入れることで厚みを増している。そして歴史を語ることで、この土地が東京では珍しく分割もされずに、まとまった形で継承され、それがまた百鬼夜行、魑魅魍魎の輩を引き寄せる背景になっていることを教えてくれる。行人坂の魔物は魔女かもしれない。欲に駆られた人々を、その魅力で虜にするのだなあ。