ホキ美術館

 このゴールデンウィークの間に、「日本初の写実絵画専門美術館」というホキ美術館に行ってきた。千葉市緑区にある美術館だが、千葉市というよりも横浜市緑区のような美しい緑豊かな新興住宅街の中にあり、日建設計がデザインした建物が美しい。展示室に入ってからの回廊も天然光を取り入れて、気持ちいい。回廊を歩きながら、絵画を楽しむ展示方式も快い。ただ、美術館というハードは堪能したのだが、ソフトというか、コンテンツというか、展示されている写実絵画のほうは...。正直言って、いま一つピンと来なかった。いま、なぜ写実絵画を描くのか、というところが作品からもう一つ伝わらなかった。
 写真がある時代になぜ写実なのか。かつての写実画には、神は細部に宿るということで、神との対話というか、描くこと自体が信仰であり、神に近づく行為でもあったのだろうが、作家がいま精密な写実絵画を描く意味は何なのだろう...そんなことを考えてしまった。写実の技巧を使いながら、自分独自の世界を創造するとか、目に写ったものではなく、心に写ったものを絵画として再構成するとか、絵画でなければできない世界を見せて欲しかった。写真そっくりで、すごい技巧だね、というだけでは、アートとしてのインパクトがない。アタマですごいと思っても、心が揺さぶられない。いま目に見えているものが真実なのか、絵にした途端にそれは虚構となるんだけど、ウソのほうが真実を表現できるとか−−もう一捻りしたものが見たかった。
 以前、NHKの「日曜美術館」で、失った娘の遺影を写真ではなく、写実的な絵画で描き出すという話をレポートしていた。それは感動的な話であり、遺族やモデルと向き合った時の画家の魂を削るような作業に心打たれたりもしたのだが、これもいま考えると、作品そのものに感動しているのか、そこに付随する物語に感動しているのかはわからなくなってきた。まあ、ひっくるめての話なんだろうけど、写実絵画の意味がそうした物語を聞いた時は理解できても、美術館のように特に予備知識もなく作品だけと向き合った時には、どうも、すんなりと心に入ってこない。
 写実的といわれる画家でも、アンドリュー・ワイエスのように独自の世界を持っている人もいる(個人的には大好きだ)。写真だって、カメラマンそれぞれに個性がある。だから、この美術館の絵を見て、今ひとつ、心が動かないのは、展示されていた作品に、そうした強烈な個性を感じさせる作品がなかったということなのかもしれない。たまたま今回、展示されていたものに、それがなかったということなのだろうか−−写実絵画について、いろいろと考えてしまう美術館でした。
記憶に辿りつく絵画 亡き人を描く画家|NHK 日曜美術館
★ ホキ美術館サイト => http://www.hoki-museum.jp/