川崎昌平『ネットカフェ難民』

ネットカフェ難民―ドキュメント「最底辺生活」 (幻冬舎新書)

ネットカフェ難民―ドキュメント「最底辺生活」 (幻冬舎新書)

 ネットカフェ難民を選択した筆者の体験記。<ドキュメント「最底辺生活」>というサブタイトルがあるが、そこに「追い込まれた」というよりも「選択した」という色合いが強いので、悲壮感、切迫感はない。流れ、流され、といった風で、31日間のネットカフェ暮らしをめぐる生活と心情が淡々と語られる。新書だが、社会批評や分析で「ネットカフェ難民」現象をまとめるというわけでもなく、そこから新たな出会いやドラマが生まれるという劇的な展開があるわけでもなく、本のつくりとしては不思議な感じ。本も突然、ぷっつりと終わる。ネットカフェに誰かが置き忘れたノートを読んでいるような気分になる。そうした効果を狙っての終わり方なのだろうか。そのあたりはわからないが、ネットカフェ生活から抜け出すわけでも、死ぬわけでもなければ、こうした、あっさりとした幕切れなのかもしれない。人生にドラマはそうはないわけだから。
 「摩耗する心」という項目があるが、だんだん、そうなっていくんだろうな、という感覚を疑似体験できるような本でもある。「最底辺」と題されてはいるものの、一方で、健康であれば、どうやっても生きているんだな、という気持ちにもさせる本(心は摩耗するかもしれないが)。そして、ネットカフェはまだ寝どころがあるだけ幸せで、その下にホームレスという、さらに最底辺の世界があるのだな、とも思う。それから比べると、ネットカフェは最底辺ともいえない感じがする。最底辺というには、それなりの環境。ただ、都市で生きていく方法はいろいろとあるもんだと思う半面、「生きる」ってなんなのだろうかとも思ってしまう本でもある。