ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』を読んでーーテクノロジーとアートの交差点に立つ男
- 作者: ウォルター・アイザックソン,井口耕二
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この伝記は、TIMEの記者でもあった筆者にジョブズ自らが持ちかけてものだが、その理由は、最後にジョブズ自らが語っている。「僕のことを子どもたちに知っておいてほしかったんだ。(略)僕が死ねば、僕についていろいろな人がいろいろなことを書くはずだけど、ちゃんと知っている人がいないって」。ジョブズは生後すぐに養子に出される。長い間、実父母を知らなかった。そうしたこともあったのかなあ。伝記についても最高のものを残したかったのだな。
ジョブズという人間を知る上でも、パソコンの歴史、アップルの歴史を知る上でも刺激に満ちて、面白い。マイクロソフト、グーグルのオープン派とジョブズのクローズド派、双方の良さも見えてくる。ジョブズは1995年のインタビューで、オタクかヒッピーかと聞かれ、ヒッピーだと答えていたが、この伝記を読むと、ものづくりの原点に1960年代のカウンターカルチャーが色濃く反映してることがわかる。LSD、禅、インドへの旅ーー60〜70年代の自己探求の群れの中にジョブズもいた。創造性、反逆性の原点がそこにあるという感じ。そしてテクノロジーとアートの交差点でジョブズの才能は開花する。
しかし、これを読むと、アップルの製品の洗練さ。テクノロジーとしても、アートとしても洗練されていたのはジョブズのこだわりによるところが大きい。ビル・ゲイツが疑義を呈していたように、ジョブズがいなくなっても、それを続けることができるのだろうか。ジョブズは永続する企業を創ることを目的としていたというが、ピクサーは残るだろうが、アップルは残ることができるのだろうか。
まあ、人間としては、かなり嫌な奴だった感じだが、創り出したものは素晴らしかった。それでも多くの人に愛されていたのは、その才能は疑問の余地がなかったし、能力を200%引き出してくれる人だったからなのだろうか。仕事の成果、思い出としては最高だけど、二度と一緒に仕事はしたくない、と思うようなタイプのリーダーだったのだろうか。こうした極端な人でないと、革命的な製品を生み出すことはできなかったのか。そんなことも考えてしまう。アイデアを現実の製品にする天才だったが、そこには狂気が必要なのかもしれない。
ともあれ、面白くて一気に読んでしまう本でした。そして創造について考えさせれます。