丸田祥三『東京幻風景』−−首都圏を中心に散在する夢の跡を写真で記録する

東京幻風景

東京幻風景

 表紙に惹かれて読んだ本。著者自身が撮影た見開き2ページの写真に2ページの解説的エッセイがつく。読んだというよりも、見たに近いところがあるが、面白い写真集だった。「幻風景」とは、夢果て幻となったような風景。廃墟も多い。と思ったら、『棄景』『廃道、棄てられし道』といった写真集がある廃道・廃墟の美を探求しているカメラマンだった(そういえば、名前に見覚えがあるし、その世界では有名な人なのだろうが、読み始めるまで、わからなかった)。
 「東京」というタイトルは付いているが、撮影対象は神奈川、千葉、埼玉といった首都圏だけでなく、茨城、栃木、群馬、静岡、長野と広範囲に及ぶ。 テーマもドイツ表現主義の影響を残す高輪消防署二本榎出張所、三鷹市国立天文台第一赤道儀室といったデザインが面白い歴史的建築物もあれば、横浜市のいまは廃墟となったフランス領事官邸跡には幕末、千葉県の畑地に残る香取海軍航空基地跡、東京都東大和市にある米軍機の機銃掃射の弾痕が残る日立航空機立川変電所には太平洋戦争の歴史を感じる。また、鉄道では、茨城県鉾田市の飛行場跡の廃電車、静岡県島田市大井川鐵道新金谷の側線にある廃車、いまは見学地となっているJR中央線大日影トンネルが面白いし、宇都宮市のドライブインの廃墟にはモータリゼーションの夢の跡も見える。工場マニアには、東京都奥多摩町奥多摩工業などの風景と、いろいろな分野のマニアが喜びそうな素材が揃っている。
 そして何よりもうれしいのは解説が充実していること。表紙の写真もそうだが、この本に登場する写真の色は幻想的。これは写真に加工が施されているから。解説エッセイのページには「撮影データ」の項目があり、撮影機材、絞りなどの詳しい撮影情報、現像時にどのような処理をしたのかが明らかにされ、カメラマニアの関心に答えてくれる。さらに簡単な地図とともに、「アクセス」「見学のアドバイス」「撮影のアドバイス」という豆情報もついている。散歩や日帰り旅行の際のガイドブックとしても良さそう。いまは寒いけど、もうちょっと暖かくなったら、カメラを片手に行ってみるか、と思わせてくれる本でもある。
棄景/origin 廃道 棄てられし道