高倉健『あなたに褒められたくて』を読む:言葉が多くなるほど、心は失われていく?
- 作者: 高倉健
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/09/10
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印象に残ったところでは、「サラゴサの祭り」での闘牛の話。
闘牛の牛は、貴族の牧場で何年もかかってブリーディングされていくんですね。
だんだん気性の烈しくなった牛を、それを恵まれない貧民街からあがってきた人たちの中から出た闘牛士がやっつける。
貴族と一般大衆との、ある意味では戦いでもあるんですね。
なるほど。闘牛にスペインの人々が熱狂する理由って、ここにあったのか。闘牛場の中は、階級闘争の場所でもあったのだな。それが二重写しになっているわけか。健さんの人柄というよりも、闘牛の構造って、そういうものだったのか、と教えてくれた話。
まさに高倉健だと思ったのは「お心入れ」。
お心入れって、いい言葉ですよね。
お心入れがないんですよね、このごろ.....端的に、どこどこの何でございますって、ちょっと高級といわれる料亭行くと、
「ええ、これは琵琶湖のシジミでございます」って。
「聞いてねえよ」って言いたいときがありますね。
どこどこの和牛でございますとか、これは何とかのヒレでございますとかって、みんな説明しちょうんですもね......。
この自分が今、売る商品に関しての......それはある意味で自信なんでしょうけど、僕はだからお心入れっていうのは、お互いわかっているって、何も言わないで出すんだけれども、これだけはあなたのために自分は選んできたんだって言いたいけれども言わない。で、出された方は、これだけ気をつかっていただいて出してもらった、みんなわかっている......それはもうある意味では、文化だっていう気がするんですよね。(略)
僕、出さないものがあってもいいんじゃないかなあって思うんですよね。
確かにあるなあ。言葉が多くなるほど、心は失われていくような...。心がないから、マニュアル的な言葉が多くなるような。心は言葉がなくても、伝わるんだなあ。本当に心があれば...。今は言葉が過剰になっているから(インターネットではテキストか)、感じるものがあるなあ、この文章。
最後に、気になったのは、この一節。
そして『海峡』の仕事が終わってホッとしたころ、初めてご一緒した森繁お父さんのテレビの対談のお仕事をお父さんのご自慢のパワー・ボートの上で収録し終わったら、事務所の者が「実は......」と、ぼくに、とっても動転するニュースを伝えてきた。
個人的なことですが、自分でもどうにもならないほど、滅入ってしまって、これまで何度かお世話になった、大津の街の灯りが遠くにキラキラ美しく見えるある寺で、数日過ごさせていただき、住職にいろいろ有難いお話を聞かせていただきながら、心を整えようと努めました。
でも、どうにもならない自分の気持ちに、よ〜し、外国に旅に出ようときめえ、旅にさえ出れば、これまで幾度かあった悲しいとき、淋しいとき、旅がそれを紛らわしてくれたことを思い出して、住職にそのことを話して山を後にした。
で、一度は断った北極ロケの「南極物語」に出演したというのだが、「海峡」の公開が1982年10月で、「南極物語」が83年7月。そして、高倉健の前妻、江利チエミの急逝が82年2月。「とっても動転するニュース」というのは、江利チエミの訃報だろうか。健さんが愛した女性は江利チエミただひとりだったのかもしれないなあ。別れても愛していたんだろうなあ、と思わせる一節でした。
ともあれ、高倉健って、健さんだなあ、と思わせるエッセイ集。
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- 作者: 藤原佑好
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