ホーチミン市・美術博物館 Bảo tàng Mỹ thuật

 ホーチミン市ベンタイン市場の近くにある美術館。中国人商人の邸宅だったというコロニアル風の建物を利用した施設で、オードリー・ヘップバーンの映画「シャレード」に出てくるような螺旋階段の真ん中に箱型のエレベーターがあるところもどこかフランス風(もっともエレベーターは動いていなかったが)。

 独立・解放戦争当時の作品を中心とした近現代美術と古代美術が展示されていたが、印象に残ったのは前者。暗い。ベトナムだから色彩は豊かな緑が基調になりそうだが、この時代は泥のような色をしたメコン川というか、ジャングルの緑ではなく、泥がベトナムの色となっている感じ。まさに「泥と炎のインドシナ」の産物。悩める知識人的な肖像画も目立つ。重く暗い時代だったのだなあ。館内はエアコンもなく、扇風機がところどころに置かれているだけで、美術品の保存状況としては劣悪といっていい環境。当時は画材も十分ではなかったし、退色や傷みが激しい物もある。しかし、海外の美術館を訪ねてみて思うのは、美術を見ると、その国の人たちの目に風景がどのように見えているかを知ることができる。ベトナムの芸術家たちの目には、緑よりも泥の色だったのだなあ。戦争の時代だったのだ。解放戦線の画家たちが戦場で持って歩いていた絵の道具も陳列されていた。
 この美術館、3階建の本館の隣に別館があり、そこでは企画展のようなものをやっていた。ドイモイ後の21世紀の新しい作家たちの特集だった様子(ベトナム語を読めないので...)。こちらは鮮やかな色彩が溢れている。緑の美しい作品もある。本館の絵画が写実的であったり、革命を描いたプロパガンダ的なものであったり社会主義リアリズム的なのに対して、もっと個人的で、内面志向の作品群だった。手法も多彩。ベトナムの戦後と今を感じさせる。時代の空気が変わると、感じる色彩も変わってくるのだなあ。泥の世界は独立・解放戦争の色彩だったのかもしれない。
 観光旅行のコースに入るような大型美術館でもないので、館内で日本人を見かけることはなく、入っているのは欧米系の人々だった。加えて、この美術館、写真撮影はフラッシュをたかなければ、OK。このあたりはフランスの美術館と同じようだった。フランス領だった遺産だろうか。
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Fine Arts Museum - Lonely Planet

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