北朝鮮の乳幼児死亡率はイラク、イラン、さらにはブータンよりも低い(優秀な)のか...

朝鮮の乳児の死亡率は経済協力開発機構OECD)平均の5倍、韓国の6倍以上であることが、2日までに分かった。韓国国会立法調査処はこのほど公表した報告書で、世界各国の情報をまとめた米中央情報局(CIA)ザ・ワールド・ファクト・ブック(2014年)の国別乳児死亡率統計を紹介した。それによると、昨年の北朝鮮の死亡率(出生児1000人当たりの1歳未満の死亡者数)は23.68人で、OECD加盟国平均(4.51人)の5.3倍、韓国(3.86人)の6.1倍だった。北朝鮮の乳児死亡率は世界223カ国・地域中、74位。

 乳幼児死亡率は、その国の社会の安定度の象徴であるともいわれる。そういう意味で、CIAも注目しているのかもしれないのだが、北朝鮮の乳幼児死亡率がOECDに象徴される欧米やアジアの先進国に大きく後れをとっているのは常識だと思ったのだが、世界の中でみれば、最低・最悪というわけでもないのだ。テレビで見ると、人民は党幹部以外、貧困にあえぎ、餓死続出みたいなイメージがあったのだが、ランキングで他の国と比較してみると、ちょっと頭を抱え込むことになる。こと乳幼児死亡率では、北朝鮮よりも劣悪な国に意外な顔ぶれが並んでいるのだ。
 まずCIAのサイトでWorld Factbookの2014年ランキングを見ると、上の記事と異なって北朝鮮は75位になっている。対象国も223カ国・地域ではなく、224と一つ多い。乳幼児死亡率も1000人中24.50人になっている。記事の23.68人は2015年のデータ。というわけで、CIAの元のデータをもとに見ると、このワーストランキングで上位に位置する乳幼児死亡率が高い国々には、経済発展に後れ、政情が安定しないアフリカ諸国や内戦状態にある紛争国が多い。乳幼児死亡率ワーストは、アフガニスタン115.08人で、これに2位マリ(104.34人)、3位ソマリア(100.14人)と、国際ニュースで良く見る国が続く。イスラム国(IS)との紛争に揺れるイラクも37.53人(62位)と、北朝鮮よりも状態は悪い。半面、同じくISとの内戦状態のシリアは15.79人(103位)。内戦の中でデータにどれだけ信頼性があるのか、わからない気もするが、シリアは中東の中では安定した国であった歴史的な基盤がまだ残っているんだろうか。
 224カ国・地域のランキングを見ると、死亡人数が2ケタの国(出生時100人に1人以上の死亡率)は140位まで続く(うち3ケタが上記の3カ国)。約62%の国・地域にあたる。ちょっと意外だったのはイランで、39.00人(55位)と、北朝鮮イラクにも劣る。もっと安定した社会基盤を持っている国かと思ったが、核開発をめぐる制裁もあり、医療インフラの整備に苦しんでいるのだろうか。映画などで見ているイメージとのギャップがある。さらに意外なのはブータン。ワーストランキング61位の38.52人。北朝鮮よりも悪いばかりか、イラクにも劣る。うーん、北朝鮮とは対極の「幸せの国」というイメージが先行しているが、生活環境はまだまだ過酷なのだなあ。
 一方、欧米先進国や日本を追いかけるBRICsを見ると、ブラジル19.21人(94位)、中国は14.79人(108位)で、インド43.19人(50位)、ロシア7.08人(160位)。ちなみに、これ224カ国・地域のワーストランキングで、順位は後ろのほど、良いということになります。で、ロシアはいま問題のウクライナ(154位、8.10人)よりは良い状態です。インドはいまだ北朝鮮以下の水準。2ケタの中国に対して、香港2.73人(217位)、台湾4.44人(187位)で、完全に先進国水準ですから、一緒にされるのを嫌がるんでしょう。もっとも、中国も北京、上海などの都市と内陸部とではかなり数字は違ってくるのかもしれない。
 別の意味で意外なのは、キューバ。死亡率は4.79人(183位)。優等生グループに入っていて、米国(USA)の6.13人(169位)よりも優秀。キューバは医療制度が進み、医療観光も多いというけど、数字でも実証されている。医療費を含めたコスパで比較したら、圧倒的な差がついてしまうかも。ちなみに、日本は2.13人で、ワースト223位。良い方から2位。最優秀はモナコの1.81人だった。
 データを眺めていると、国家の経済力(GDPの順位)と社会基盤の安定(乳幼児死亡率)は必ずしも一緒というものでもないものだと感じる。また、これを社会基盤を測るひとつの指標として見るのならば、現地の国民から見た別の姿も見えてくる。北朝鮮を含めて、データの信頼性という問題はあるかもしれないし、本当は時系列で見て、改善しているのか、悪化しているのか、趨勢をみることのほうが大切なのかもしれないが、今回のデータを見る限り、必ずしも北朝鮮の社会が不安定で、明日にも崩壊するというほど不安定ともいえないのかもしれない。少なくとも、VISTAと称された新興国群にしても、アルゼンチン(9.96人、141位)ヴェトナム(18.99人、95位)はいいとして、トルコ(21.43人、84位)、インドネシア(25.16人、71 位)は北朝鮮と大差なく、南アフリカ(51位、41.61人、51位)に至っては、乳幼児の環境は北朝鮮よりも劣悪ということになる。それにしても北朝鮮は実態がよくわからない不思議な国だなあ。
★ CIAのThe World Factbook:2014年・乳幼児死亡率(Infant Mortality Rate)ランキング => https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/rankorder/2091rank.html
★ CIAのThe World Factbook:2015年・乳幼児死亡率(Infant Mortality Rate)国別データ => https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/fields/2091.html#118

民衆の北朝鮮―知られざる日常生活

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