岩田規久男『インフレとデフレ』を飛ばし読み
- 作者: 岩田規久男
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/04/11
- メディア: 文庫
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インフレとデフレに関する経済学入門書のような本で、さくさく読めた。そして、やっぱり、第一次大戦後のドイツにしても、1980年代のメキシコ、ブラジル、アルゼンチンにしても、中央銀行が国債を引き受け、財政のために紙幣を刷りまくった結果、最後はハイパーインフレがやってきて、政情不安。ドイツなどはナチスが台頭し、戦争の末に国は東西に分断されてしまった。需要拡大のために選択するには、あまりにも劇薬。ハイパーインフレという社会が死に至る副作用を伴う処方箋をしら〜とやろうとしているように見える。何だか、怖いなあ。治療にあたって、リスクも説明してほしいなあ。絶対多数だと、治療前の説明なしなんだろうか。最新の治療法ですって、患者が殺されちゃったも同然の某大学の病院みたいな手術にならなければいいけど。
で、この本の内容を目次でみますと...
序 インフレ・デフレは防げるか
第1章 ハイパーインフレと大不況
第2章 インフレとデフレの恐ろしさ
第3章 デフレはなぜ起きるのか
第4章 インフレはなぜ起きるのか(1)その長期的側面
第5章 インフレとデフレの歴史
第6章 インフレはなぜ起きるのか(2)短期から長期へ
第7章 スタグフレーションの克服とディスインフレ
第8章 コスト・プッシュ・インフレはなぜ起きるか
第9章 インフレ・デフレをどう予防するのか
第10章 インフレ目標政策と日本の長期デフレの克服
もともとは1990年に発行された本で、2012年の春に第10章のインフレ目標政策が追加され、文庫本になった。1990年代当時の関心事はインフレだったけど、2012年当時はバブル崩壊後、20年余り続くデフレこそが大テーマで、そんな時代背景の中でインフレ目標政策が提言されていた。第2次安倍政権が発足したのが2012年12月で、それから日銀がインフレ目標政策に転換したことを考えると、入門書であると同時に時代をリードした本ともいえるかもしれない。
しかし、それから4年。いまだに日本はデフレから脱却できない。インフレ目標政策が機能しないのか。あるいは、それだけでは不十分ということか。不十分だとして、その限界を超える解答がハイパーインフレという致死的なリスクを伴う国債の中央銀行引受による財政大出動なのか。経済学って生きた学問なんだなあ。疑問はどんどんと膨らんでく。この本の2016年改訂版を読みたいところです。
しかし、経済学は学説、理論が正しいのかどうかは、結局のところは現実で証明していかなければならないというところがあるから難儀だなあ。打ち出す政策の根拠となる経済理論が現状の問題に対する正しい解答なのかどうか。それ以前に現状の認識、問題の立て方自体が正しいのかどうか。現代の経済学は知的な冒険の世界かも。岩田氏は2012年に頑張っていたわけだが、他の経済学者たちは今も続く、この知的課題に燃えていないだろうか。テレビで、それっぽい後付の解説をすることは得意でも、経世済民(世をおさめ民をすくう)の学問として現実問題の解決に挑む知的努力はしないんじゃ、経済学を職業に選んだ意味がないような気がするけど...。最後は、そんな本と関係ないことまで考えてしまった本でした。