河野通和『言葉はこうして生き残った』を読む

言葉はこうして生き残った

言葉はこうして生き残った

 「考える人」のメールマガジンを愛読しているのだが、このなかから37回分をまとめた本が出たということを(これまたメルマガで)知り、早速、買って読む。メルマガを読み始めたのは2、3年前からだったので、かなり読んでいないものがあった。筆者は中央公論社で「中央公論」「婦人公論」などの編集長を務め、いまは新潮社の「考える人」の編集長。冒頭の一編は、中央公論社と新潮社の創業当時の縁を紹介したものだが、両社の歴史が交錯していた瞬間があったことは知らなかった話で、面白かった。どちらも歴史のある出版社だが、不思議な縁があったのだなあ。
 取り上げられている本の分野は古今東西幅広く、多少は本を読んでいると思っていた自分だったが、読んでいない本どころか、存在すら知らなかった本などが次々と紹介され、自分としては発見ばかり。老舗出版社の編集者の教養、知識の幅と深さに圧倒される。読みたい本を何冊もメモしてしまった。しかも、野坂昭如のエピソードに象徴されるように、いまや伝説ともいえる作家たちに実際に会っているところが恐ろしい。
 目次を紹介すると、こんな具合…

第1章 言葉はこうして生き残った
第2章 あらためて、書物とは
第3章 出版草創期の人びと
第4章 作家の死、一時代の終わり
第5章 先達の「生」を生きる
第6章 言葉の受難を乗り越えて
第7章 生命はこうしてつづきゆく

 目次だけだと、わかりにくいかもしれないが、読んでいると、この本も読んでみたい、あの本も読んでみたいと、読書欲をかきたてられる。自分でも読む本に偏食の傾向があると思っていただけに、本の世界を広げてくれる。実際、詩集はほとんど買ったことがなかったのだが、こんな本を買ってしまったり…

 あるいは、いままで知らなかった、こんな作家の自伝を手に入れたり...
文盲: アゴタ・クリストフ自伝 (白水Uブックス)

文盲: アゴタ・クリストフ自伝 (白水Uブックス)

 まだまだ読んでみたい本がある。そういえば、「考える人」の最新号は…
考える人 2017年 02 月号

考える人 2017年 02 月号

 フェイク・ニュースだ、オルタナティブ・ファクトだ、ポスト・トゥルースだとか、言葉がどんどん軽くなり、薄くなってしまっているように思える時代だが、世の中がどうあろうとも、まずは自分自身が言葉に大切にしていく、軽んじないことが重要なのだな、と。そのためにも、もう一度、しっかりと、いろいろな本を読んでみよう、と。そんなことを考えさせてくれる本でもありました。