NHKスペシャル「見えない"貧困"ーー未来を奪われる子どもたち」を見て、未来を考える

 先日、知人から「最近は生活に困っている子どもたちの現状が見えにくいんだ。金持ちの子も貧乏な子もみんな、ユニクロを着て、スマホを持っている。外見だけじゃ、食事に事欠くほど困っているのかどうか、わからないんだよね」という話を聞いたところだったので、昨夜、NHKスペシャルが気になって、見た。

6人に1人の子どもが相対的貧困状態に置かれている日本。その対策は喫緊の課題とされながら有効な手立てを打てていない。そうした中、東京、大阪などの自治体や国が初めて大規模調査を実施。世帯収入だけでは見えない貧困の実態を可視化し、対策につなげようとしている。

 教師が知人と同じような話をしていたので驚いた。そういう状況なのだ。年寄りのなかには「スマホを持っているなんて贅沢だ。無駄遣いするから、生活が大変になるんだ」みたいなことを言う人がいるが、今の世の中、スマホ(通信)は電気・ガス・水道と同じく生活に欠かすことのできないインフラになっている。友人との関係だけでなく、バイトなどの仕事をするにも必需品だ。なければ、社会から外れて、ますます貧困化していきかねない。
 それでも、厳しい家庭環境の中で、大学や専門学校への進学するためにバイトをして資金を貯めている高校生が少なくないことは心強いというか、すごい話だと思う。それでも、この番組でもレポートしていたように、奨学金という借金をしなければ、どうにもならず、学費、特に入学金は大きな壁なのだなあ。大学に進もうとしていた子が、学費の計画までは立てていたものの、高額の入学金のことまでは計算していなくて、泣き出してしまうところなど、やるせない。
 オリンピックだ、高齢者だ、というけど、誰も自分たちのことは考えてくれないと言っている子がいたが、貧困、被災地すべてに目をつぶって快楽を追い求める社会になりかけている感じがして、日本のどこかが狂ってきているようで怖いなあ。子供のうちから、希望を失った人間、社会に絶望した人間を生むということは、未来を殺していくことだから、この先にどんな日本になるのか。社会から阻害され、希望を失った優秀な人間は優秀であるほど反社会的行動に走る、というような話を本で読んだこともある。絶望は本人にとってはもちろん、社会にとっても悲劇です。
 林雄二郎の書いた「未来学の日本的条件」という論文*1に、こんな一節があったことを思い出した。

 未来社会の姿は、われわれが見ることも確認することもできないと思うのはたいへんなまちがいで、実はその雛形ともいうべきものが現代の社会、とくに現代のこどもの意識のなかにいくらでも見出すことができる、ということを強調しておきたいのである。
 なぜこのようなことをいうかというと、従来、未来社会をデッサンしようとする場合には、私にとってはもっとも重要だと思われるそのような点がほとんど考慮に入れられず、つねに現代の大人の意識だけで未来社会デザインのための前提条件が設定されたということに対して、疑問を抱かずにはおれないからである。それはたしかにわれわれ大人から見れば、きわめてあたりまえの常識的な前提条件であるかもしれないが、それがあまりにもわれわれ大人から見て常識的であるがために、かえってその結果として描かれる未来社会の姿がまちがったものになりはしないかとおそれるものである。そのときには、その社会を推進する中心である大人たちはいまの大人ではなくいまの子供たちであろうからである。

 大人たちは、東京オリンピック大阪万博リニア新幹線という20世紀の高度成長期のリメイク版を21世紀の「未来」として語る。あまりに常識的な未来に大人たちが陶酔する一方、子どもたちに貧困と格差が広がり、「頑張っても仕方がない」と考える子どもたちが増えていっているのだとしたら、未来は...。投資の優先順位からいったら、子どもたちへの投資が最優先になるのだろうけど。少子高齢化・人口減少時代のいま、人口増加・高度成長期的なコンクリートの箱物つくってニッポン万歳という時代でもないのだろうけど...。大人たちがカネに糸目をつけずいつくった箱物のツケのことを子どもたちは考えているのだろうか。
 「子どもの貧困」の実態調査に国や自治体が取り組み始めたことは前進と、ポジティブに捉えるべきなのだろう。問題を認識しなければ、解決はない。以前、「貧困の子」を扱ったNHK特集は、心ない攻撃*2にさらされ、話が変な方向に飛んでしまったが、今度は未来を考えるきっかけになって欲しいものです。いろいろと考えさせられるNHKスペシャルでした。

未来学の提唱 (1967年)

未来学の提唱 (1967年)

*1:梅棹忠夫加藤秀俊川添登小松左京・林雄二郎監修『未来学の提唱』に収録されていた

*2:ビジネスジャーナルは「当サイトに掲載した8月25日付記事『NHK特集、「貧困の子」がネット上に高額購入品&札束の写真をアップ』における以下記述について、事実誤認であることが発覚しましたので、次のとおり訂正してお詫びします」と始まる「お詫びと訂正」を出したけど => http://biz-journal.jp/2016/08/post_16526.html