米NSCからバノンが追われ、ベトナム戦争の教訓を研究したマクマスター補佐官の存在感が増す様子

 トランプ政権が発足して以来、初めての明るいニュースかもしれない。

トランプ米大統領が米国家安全保障会議(NSC)を再編し、側近のスティーブン・バノン米首席戦略官・上級顧問をメンバーから外したことが5日わかった。複数の米メディアが伝えた。NSCは軍人出身のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が取り仕切る。政権内でバノン氏ら側近グループとの主導権争いが激しくなっている可能性もある。

 トランプ大統領の側近ナンバーワンにして、トンデモ右翼といわれるスティーブ・バノンが国家安全保障会議NSC)のメンバーを外れる。トランプ政権の安全保障を担当する大統領補佐官は、マイケル・フリン元国防情報局長官がロシア疑惑で退任した後、ハーバート・マクマスター中将が就任していた。このマクマスター、親トランプ、反トランプ、派閥を問わず信頼されている人物。現政権のなかでは、数少ない、まともな人物に見えた。それは、こんな本も出しているから。

Dereliction of Duty: Johnson, McNamara, the Joint Chiefs of Staff

Dereliction of Duty: Johnson, McNamara, the Joint Chiefs of Staff

 
敗戦真相記 予告されていた平成日本の没落 失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫) 「Dereliction of Duty」。これを訳すと「職務怠慢」。なぜ、米国はベトナムに参戦し、戦争は泥沼化していったのか。国防総省国務省、大統領補佐官、統合参謀本部など大統領を支えるスタッフ、官僚は、ベトナム戦争をめぐる意思決定にあたって、その職務を果たしていたのか。米国版の「失敗の本質」というか、「敗戦真相記」というか、ベトナム戦争の失敗を分析した本。この著者がマクマスターなのだ。
 英語は得意ではないので、最初の方をちょこちょこっと読んだだけなのだが、それでも、かなり面白い。ケネディ政権の発足から話は始まるのだが、ケネディ大統領は、これまでのワシントンのやり方を変えると意気込んでホワイトハウスに入る。最も頼りにしていたのは、弟のロバート・ケネディだったりする。思想的にはトランプとは正反対でも、ワシントンの流儀の否定や家族を頼りにしているところなど、トランプ政権に通じるものがある。国防総省の改革のためには、フォードの経営者として成功したマクナマラを据え、その周辺には軍事改革のためにデータ分析の得意な若手の天才たちが顔を揃えた。若手のスタッフは、軍人たちを戦争しか知らない筋肉バカのように見ているし、一方、統合参謀本部は、本当の戦争を知らない頭でっかちのガキどもと見て反目が生まれる。
 各官僚組織には縦割りの壁があり、キューバに反カストロ派を上陸させ、カストロ政権を軍事的に転覆させようとしたピッグス湾事件にしても、立案、実行したのはCIAで、統合参謀本部は作戦内容を知らず、冷淡だったという話も紹介されている。
 まだ読みかけなので、全体を判断できないのだが、ホワイトハウス(大統領府)、国防総省国務省、統合参謀本部、議会などの組織、さらには軍事、外交面の思想、政策まで俯瞰して、クールに分析している。これだけの分析ができる知性が国家安全保障担当の大統領補佐官になったことに安心する一方、果たしてトランプ政権のスタッフ間の主導権争いに勝ち残れるのかどうかが気がかりだった。ベトナム戦争など過去の反省を活かした体制づくりができるのかどうか。そこでは、トンデモ右翼のバノンと対立しそうな気が...。もし、マクマスター補佐官が辞表を出すような事態になったら、トランプ政権は(というよりも、世界は)やばだろうな、と思った。
 そんな思いで、みていたところ、国家安全保障会議から外れたのはバノンのほうだった。とりあえずは、一安心。国家安全保障会議はまともに機能しそう(そこでの政策をトランプが採用するかどうかは別問題だが…)。
 で、この「Dereliction of Duty」、どこかの出版社が翻訳して出してくれないだろうか。英語は得意でないもので...。