桐野夏生『夜の谷を行く』を読む

夜の谷を行く

夜の谷を行く

 連合赤軍事件を題材にした話題の小説。一気に読んでしまった。連合赤軍事件から45年が経っているのだな。先日、逃亡45年の果てに逮捕された中核派の活動家がいたが、すっかり爺さんだったもんなあ。もうすぐ半世紀。歴史なのだな。その間に何があったのか。あの時代を走った人たちは今、何を考えるのか。連合赤軍の兵士だった女性の現在と過去が交錯していくのだが、登場する人物たちにリアリティがある。こんな形に時代を総括しているのかなあ。
 しかし、ここで描かれる、連合赤軍リンチ殺人事件に関係し女性兵士も、第2次大戦下で非人道的に行為に関係した日本軍兵士も、どこか共通したものを感じる。「仕方がなかった」という気分が濃厚に漂う。悪に直面したときの個人の倫理のあり方というか、集団の中での個人の責任意識と言うか、これは時を経ても大差ない印象を受ける。戦前派・戦中派の偽善を厳しく批判した「全共闘世代」「戦争を知らない子どもたち」にしても、半世紀たってみれば、過去の自らの行動を直視しないというところでは変わらない。そして、いくら過去を切り離して生きようとしても、過去はどこまでも追いかけてくる。
 日本人って何なのだろう。永田洋子だけに責任を押し付けるのも、どこか女性蔑視の感情が底流にある。この小説を読んでいると、いろいろなことを考えさせられる本だった。