鈴木邦男『天皇陛下の味方です』を読む

天皇陛下の味方です[単行本]

天皇陛下の味方です[単行本]

 鈴木邦男氏といえば、新右翼の論客として知られた人。それがいまやヘイトスピーチの「愛国」集団に「鈴木邦男朝鮮半島に帰れ〜」と叫ばれているというから、世の中、変わったというか、何というか。このところ、保守派とか、右派といわれている人びとに旧世代としては違和感が消えないのだが、この本を読むと、右から見ても右は変質してしまったのだな、という思いを新たにする。日本における民族派(右翼といわれていた人びとですね)の歴史、そして明治、大正、昭和、平成と近代国家になってからの天皇が語られ、刺激的であり、面白かった。
 右翼、民族派といっても、多士済済、いろいろな人がいたのだなあ。右翼の系譜については詳しくなかったので、初めて知る人も多く、興味深かった。戦後でいえば、やはり三島由紀夫野村秋介の存在は大きいなあ。この本も「亡き三島由紀夫野村秋介に捧ぐ」という献辞から始まる。一方、時代の個性は天皇に反映し、天皇の個性もまた時代に反映するのだなあ。近代国家となってからの日本の天皇として大正天皇はとかくスルーされがちだが、この本では再評価されている。大正リベラリズムというのは、大正天皇の個性の反映であり、一方で、その反動が昭和の前期の偏狭さだったのかもしれない。
 で、目次を内容を見ると、こんな具合...

第1章 右向け右!
  1 反日分子をやっつけろ
  2 右曲がりのニッポン
  3 権力と大衆
第2章 愛国を叫ぶ者たち
  1 愛国政権登場
  2 愛国憲法
  3 人は右翼というけれど
第3章 天皇と日本人
  1 永きものの皇統
  2 明治天皇と日本の青春
  3 皇太子裕仁親王
第4章 戦争と昭和天皇
  1 テロの季節
  2 亡国戦争
  3 聖断
第5章 新しい国体
  1 マッカーサーの時代
  2 戦後日本の明暗
  3 リベラルの砦、今上天皇
第6章 私、天皇主義者です
  1 皇室の危機
  2 天皇リベラリズム
  3 結語

 「天皇陛下の味方」と言いながら、明仁天皇を軽んじているように見えるのが、最近の右派だが、鈴木氏は、寄り添い、祈る天皇である明仁天皇を支持し、タイトルどおり、心底、「天皇陛下の味方です」であり、「私、天皇主義者です」なのだなあ。