「JSA」ーー南北分断の悲劇を映し出すミステリー

JSA(字幕版)

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  4月に開かれた韓国と北朝鮮の南北首脳会談で、文在寅大統領と金正恩労働党委員長が板門店で握手し、境界線を越えるニュースを見て、ふたりの背景の景色、どこかで見たことがあると思ったら、この映画、「JSA」だった。JSAとは「Joint Securty Area」、南北休戦ラインの共同警備区域のこと。ここで北朝鮮の兵士が韓国兵によって殺された事件の真相を、中立国のスイスから来たコリアン・ハーフの女性将校が探るという物語。

 板門店の境界線で、ソン・ガンホ扮する北朝鮮兵とイ・ビョンホン演じる韓国兵が向かい合う場面があるが、この越えられない一線を南北ふたりの首脳が越えたわけだなあ。ニュースの風景とまるで同じ。よくできたセットだと思ったら、南北首脳会談のあとは、観光スポットになっているのだとか。

news.livedoor.com 映画では、ソン・ガンホイ・ビョンホンに「お前、影が境界線を越えているぞ」とか毒づく場面があるのだが,いまは和解を祝っての握手再現スポットになっているのだな。

 で、映画は、南北分断の悲劇を背景としたミステリー。なぜ、ひとつの民族がふたつの国に分かれて、戦わなければならないのか、という問題が根底に流れる。ネタバレになってしまうが、韓国と北朝鮮の兵士は、あることがきっかけで密かに交流を始め、一緒に音楽を聴いたり、酒を飲んだりするようになる。そんな一場面で、こんな会話がある。

  韓国の兵士が「本当に戦争が起きたら、俺たちも撃ち合いをするのか」と言い出す。これに北朝鮮の若い兵士が、お互い、自分たちの国にとって良い戦士だという証明書を出したらどうか、と言い、それはいい考えだと韓国の兵士たちが応じたりしているのだが、そこでソン・ガンホ演じる古参兵の北朝鮮兵士が...

「のん気な奴らだな。ヤンキーがウォーゲームを始めれば、ここの警備兵の生存率はゼロだ。戦争開始3分以内に北南とも全滅。焼け野原になるんだ。よく覚えておけ」

 この台詞に南北というか、韓国の国民感情がうかがわれる感じがした。自分たちの意思を超えて、米国の事情で自分の国土で戦争を始めるのかどうかが決まってしまう。その不条理。

 今年の初めまで米国が北朝鮮との予防戦争に前のめりになる中で、韓国の文大統領が南北対話へ奔走したのは、米国の事情で戦争が起きた場合、多くの犠牲者を出すのは自分たちの国民だという意識があったのだろう。朝鮮戦争終戦を目指すのも、「米国のウォーゲーム」で休戦だったり、開戦だったりする 状況に一度、終止符を打ち、戦争をするも、しないも、自国の主権のなかに置きたいからかな、と思ったりもする。

 ひとつの台詞から、そんなことを考えてしまった。文大統領は、ソン・ガンホのファンだというが、わかる気がする。ソン・ガンホは好きな俳優だけど、リベラルな映画が多いしね。

弁護人(字幕版)

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 で、「JSA」に戻ると、面白いです。監督は「オールド・ボーイ」「親切なクムジャさん」「お嬢さん」のパク・チャヌク。俳優陣は、ソン・ガンホ、まだ若造だったイ・ビョンホンに加え、ヒロインの女性将校は「チャングムの誓い」「親切なクムジャさん」のイ・ヨンエ

 ネタバレついでにいうと、この映画、北(北朝鮮)の人、南(韓国)の人のほか、朝鮮戦争の休戦後、韓国から解放されることになった北朝鮮の兵士が、北も南も選択せず、難民となって中立国に渡ったという話が出てくる。どちらも選択できず、デラシネとなった人々。どちらかを選べ、といわれ、どちらも選べる政府でなかったら、どうするか。冷戦下、超大国に挟まれた緩衝国家としての悲劇に加え、大国の事情によって守られた政府がどちらもにも問題があった場合、どう生きるのか。それがさらに奥行きを与えている。

 なんて難しいことを考えなくても、ミステリーとして面白いです。