高月靖『在日異人伝』ーー力道山から町井久之まで朝鮮半島にルーツを持つ異能、異才な人たちの人生行路

 こんな本を読みました。

在日異人伝

在日異人伝

 

  在日コリアン列伝。「異人伝」の「異人」は、異能の人という意味。確かに芸能界、スポーツ界から経済界に至るまで、異能を発揮すると、「あの人、ザイニチじゃないの?」という噂が走ることがある。噂が真実の場合もあれば、フェイクの場合も。そして、そうした日本の風潮の中で、カミングアウトする人もいれば、沈黙する人もいる。それは人それぞれの人生観であり、それぞれの物語。

 この本では、戦後史に燦然と輝く実績を残した在日コリアンたちが紹介されている。朝鮮半島出身の人と知っていた人もいれば、知らなかった人もいた。目次で見ると、この本でとりあげられているのは、こんな顔ぶれ。

序章 「噂」の背後に横たわる歴史

第1章 半島の原風景

 力道山  物語を生きた男

 立原正秋 年譜に刻み込んだ創作

 張本勲  大歓声に沸く球場のチマチョゴリ

 韓昌祐  70年目を迎えた挑戦

 陳昌鉉  朝鮮の山野に溶けた旋律

第2章 多国籍文化の担い手

 ジョニー大倉 ジョン・レノンに託した叫び

 松田優作   不条理をくるんだ訛り

 鄭大世    黒板に書いた「祖国」代表の決意

第3章 戦いと蹉跌

 徐勝   二つの祖国

 李熙健 「民族系金融」の蹉跌と遺産

 金嬉老  日本への望郷

 町井久之 日本に託した夢

インタビュー

 鄭義信  石垣朝鮮集落の記憶

  力道山張本勲松田優作ジョニー大倉は有名だが、立原正秋朝鮮半島の流れの人だとは知らなかった。鄭大世など名前で最初からわかる人もいる。

 それぞれの人生を通じて、日本の戦後史と同時に朝鮮半島の歴史を知ることができる。南北の分断、左右両派の凄惨な対立、朝鮮戦争といった半島の歴史に翻弄され、帰るに帰れなくなった人びとも多かったことを知る。勉強になります。読んでいて、深沢湖の小説『海を抱いて月に眠る』に通じるものを感じた。あちらは小説だが、こちらはリアルな物語が綴られている。印象に残る本でした。