ナイジェル・ウォーバートン『若い読者のための哲学史』を読むーー哲学者はときに世間にとってうるさいアブか
もう全然、若くはないのだけれど、読んでしまいました。
若い読者のための哲学史 (Yale University Press Little Histor)
- 作者: ナイジェル・ウォーバートン,月沢李歌子
- 出版社/メーカー: すばる舎
- 発売日: 2018/04/26
- メディア: 単行本
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『ソクラテスの弁明』を読んで、哲学に関心をもち、その歴史を読んでみたくなった。この本はイェール大学出版局「リトル・ヒストリー」シリーズの1冊。大学生のための入門書として書かれたのかどうかはわからないが、中学・高校生でもわかりそうなぐらい読みやすく書かれた本だった。それぞれの哲学者がどのようなテーマを追って、どのような思考をしてきたかが平易な文章で書かれている。こういう入門書は欧米の得意とするところで、とっつきやすい。
この本をざっと読んでみて、さらに興味があれば、原点を読んでいくということなのだろう。内容はソクラテスから現代のピーター・シンガーまで幅広い。哲学者だけでなく、ダーウィンやフロイトのように、その後のものの考え方に影響を与えた人も紹介する。
目次で登場人物をみていくと、こんな具合。
2.真の幸福(アリストテレス)
3.わたしたちは何も知らない(ピュロン)
6.わたしたちを操るのは誰か(アウグスティヌス)
7.哲学の慰め(ボエティウス)
8.完璧な島(アンセルムス、アクィナス)
9.キツネとライオン(ニッコロ・マキャベリ)
10.下品で野蛮で短い(トマス・ホッブス)
11.これは夢なのだろうか(ルネ・デカルト)
12.賭けてみよ(ブレーズ・パスカル)
13.レンズ磨き職人(バルーフ・スピノザ)
14.王子と靴直し(ジョン・ロックトマス・リード)
15.部屋の中のゾウ(ジョージ・バークリー、ジョン・ロック)
16.すべての可能世界のうちで最善のもの?
17.想像上の時計職人(ディヴィッド・ヒューム)
18.生まれながらにして自由(ジャン=ジャック・ルソー)
19.バラ色の現実(イマヌエル・カント①)
20.「誰もがそうするなら?」(イマヌエル・カント②)
22.ミネルヴァのフクロウ(ゲオルク・W・F・ヘーゲル)
23.現実の世界(アルトゥル・ショーペンハウアー)
24.成長するための空間(ジョン・スチュアート・ミル)
25.知性なきデザイン(チャールズ・ダーウィン)
26.命がけの信仰(セーレン・キルケゴール)
27.団結する万国の労働者(カール・マルクス)
28.だから何?(C・S・パース、ウィリアム・ジェームズ)
29.神は死んだ(フリードリヒ・ニーチェ)
30.仮面をかぶった願望(ジークムント・フロイト)
31.現在のフランス国王は禿げているか(バートランド・ラッセル)
32.ブー! フレー!(アルフレッド・ジュールズ・エイヤー)
33.自由の苦悩(ジャン=ポール・サルトル、
34.言葉に惑わされる(ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン)
35.疑問を抱かなかった人(ハンナ・アーレント)
36.間違いから学ぶ(カール・ポパー、トーマス・クーン)
37.暴走列車と望まれないバイオリニスト
(フィリッパ・フット、ジュディス・ジャーヴィス・トムソン)
38.無知による公平(ジョン・ロールズ)
39.コンピューターは思考できるか
40.現代のアブ(ピーター・シンガー)
哲学史といっても、西欧哲学史。西欧ではキリスト教の普及後、世界認識に神の問題が大きかったことを改めて知る。そして、読んでいるうちに、宗教的基盤の異なる東洋哲学、イスラム哲学の歴史についても知りたくなる。このあたりは井筒俊彦の本を読むべきなのだろうか。
東洋哲学覚書 意識の形而上学―『大乗起信論』の哲学 (中公文庫)
- 作者: 井筒俊彦
- 出版社/メーカー: 中公文庫
- 発売日: 2001/09/01
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でも、井筒俊彦の本は難しそうだな。
ともあれ、ナイジェル・ウォーバートンの本、読みやすくて、西欧哲学の流れを知る入門書としては良かった。哲学は、静かな学問のようでいて、真実、本質について突き詰めて考えいくことは、ときとして人々の神経を逆なでし、世間をざわつかせることもある。それはソクラテスとピーター・シンガーに共通しているという。しかし、アブのようにうるさく、うっとうしい哲学者が発する設問から、物事は新たな様相を見せ、いままで気が付かなかった問題の本質を教えてくれることもある。伊丹万作いうところの「だまされる」という悪*1に陥らないためには、哲学者のように考えることも必要になる。
そういえば、最近もこんなことが...
東洋大学が、元総務大臣でグローバル・イノベーション学科教授の竹中平蔵氏(67)を批判する立て看板を21日に校内に立て、ビラを配った文学部哲学科4年の船橋秀人さん(23)に「退学」を示唆するような発言をしていたことが24日、分かった。
哲学科の学生...。ソクラテスの教え子らしく、世間をざわつかせているのかもしれない。哲学って静かな学問かと思っていたが、過去の歴史を振り返ってみると、挑戦的で、ときにイラッとさせ、そして、そのあとに深く考えるきっかけをつくってくれる学問なのだろう。