ジム・ロジャーズ『お金の流れで読む 日本と世界の未来』

 ジム・ロジャーズのアベノミクスへの評価を知りたくて、読んでみた。

お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する (PHP新書)

お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する (PHP新書)

 

 まず、目次で内容を見ると...

序 章 風はアジアから吹いている

      ーーただし、その風には「強弱」がある

第1章 大いなる可能性を秘めた日本

第2章 朝鮮半島はこれから「世界で最も刺激的な場所」になる

第3章 中国ーー世界の覇権国に最も近い国

第4章 アジアを取り囲む大国たち

      ーーアメリカ・ロシア・インド

第5章 大変化の波に乗り遅れるな

第6章 未来のお金と経済の形

   風はアジアに吹いているというが、日本ではない風情。第1章の「大いなる可能性を秘めた日本」というタイトルだけをみると、日本のことをほめているようだが、中身を見ると「日本の未来を世界史から照射する/閉じた国は亡び、開いた国は栄えるーー歴史の必然」、「日本の好景気はうわべだけ/じきにこの国を蝕む重い病とは」「移民を受け入れる国は栄え、拒む国は亡びる/いかに社会への影響をコントロールするかを考えよ」といった具合。

 アベノミクスについては「いつか「安倍が日本を駄目にした」と振り返る日が来る」と厳しい。アベノミクスの最大の成果といえば、株高だが...

いまの日本の状態は、「紙幣を刷れば株価が上がる」という市場の原理に則っているだけだ。金融緩和が続く限りこの好景気も続くだろうが、根本的な解決策にならないことは、先ほどのアメリカ、イギリス、ドイツの例を見たらわかる。紙幣を刷りまくっても駄目なのだ。アベノミクスが成功することはない。

 あらあら、断言されちゃった。だから「私がもし10歳の日本人なら、ただちに日本を去るだろう」となる。金融政策と財政政策だけでは限界があるといわれながら、政権発足から6年を過ぎても、いまだに成長戦略は見えてこないのだから、ジム・ロジャーズに見限られても仕方がないか。少子高齢化の問題にしても、この6年余りで、どんな手が打たれたか...。日銀だけでマーケットをどこまで支えきれるのか。投資家の心理は揺れ動き、最近のマーケットは神経質になっているのかな。4月末からの10連休もあるしなあ...。怖くて買えないよなあ...。

 一方、興味深いのは、朝鮮半島の潜在成長力に着目していること。北には資源があり、南には製造業がある、ということは以前からいわれていたが、南北が統一されると、少子化に悩む韓国が北朝鮮の若年労働人口出生率回復の面でも助けられるとみている。そういう見方もあるのか、という感じ。国の成長力を考えるとき、人口動態はポイントになるのだなあ。

 資本主義は絶えず成長のフロンティアを探し続けるといわれるが、国際社会から排除されていた北朝鮮は資本主義にとっての最後の未開拓地とみることもできるのかもしれない。ハノイで開かれた米朝首脳会談で、北朝鮮との交渉はひとまず暗礁に乗り上げた雰囲気で、まだまだリスクはあるが、ハノイ会談のときも欧米の経済界のなかには北朝鮮でのビジネスチャンスに前のめりになっている雰囲気があった。どうして、そんな動きが出てくるのかは、このジム・ロジャーズの本を読むと、よくわかる。

 独裁であるかどうか、人権問題はどうかといったことは、ジム・ロジャーズにとっては関心の枠外。金の流れとは関係ないといってしまえば、そんなものなのかもしれないが、身も蓋もないというか、ちょっと切ない感じもする。

 ともあれ、ちょっと違うんじゃないの、とツッコミを入れたくなるところもあるが、こんな見方もあるのかと、今までとはちょっと違う視点を提供してくれるところは刺激的。そこがジム・ロジャーズの魅力でもある。で、当たるも八卦、当たらぬも八卦。5年後、10年後には答えがわかる。