安岡章太郎『流離譚』

流離譚 上 (講談社文芸文庫)

流離譚 上 (講談社文芸文庫)

流離譚 下 (講談社文芸文庫)

流離譚 下 (講談社文芸文庫)

 安岡章太郎が自らのルーツを探る歴史小説。安岡は土佐の郷士の家柄で、家系には土佐勤王党の一員がいて、ひとりは天誅組に入り刑死し、ひとりは戊辰戦争のさなか会津で戦死する。そうした家なのに、親戚に東北なまりの言葉を話す家がある。会津に移住した安岡家の人がいるのだ。その謎を文献・書簡や現地への旅を通じて探っていく。
 今年の大河ドラマ龍馬伝」と重なり合う物語だけに面白い。そして土佐藩の上士・下士の対立、維新後も解消しなかった身分差別、時代の波に乗った者と乗り遅れた者の格差、自由民権運動を通じた土佐と会津の交流など読んでいて飽きさせることがない。郷士であった武市瑞山にとって「切腹」が持つ意味(切腹は上士でなければ許されない)、山内家本流ではない山内容堂の屈託、長宗我部の家臣だったのに山内家によって唯一上士にとりあげられた一族である吉田東洋に対する上士・下士双方からの憎悪、坂本龍馬が流離の果てに抱いた望郷の念が生んだ悲劇など、土佐出身の安岡ならではの記述が興味深い。