古賀春江の全貌(神奈川県立近代美術館・葉山館)

 先日、日本経済新聞の文化欄で、この「古賀春江の全貌ーー新しい神話がはじまる」展が紹介されていて、興味を持って、葉山まで見に出かける。
 古賀春江というと、東京国立近代美術館で見た「海」( http://t.co/jPl7vmR)の絵で、1929年にこんなモダンな絵を描いた人が日本にもいたのかと、鮮烈な印象を受けていたのだが、今回の展示会では、初期の水彩画から38歳の死に至るまでの作品だけでなく、作品のイメージの材料として使われた絵葉書や雑誌の写真などの展示など、古賀春江の創作の過程と作品の変遷を知ることができる。
 初期の作品を見ると、この人は、こんな水彩画も描いていたのかと、あまりの作風の違いに簡単してしまう。そして作品を辿っていくうちに、一見、デタラメな古賀のシュールリアリズムの作品が知的な計算の中で組み立てられていたことを知る。国内・海外の多くの文献、資料を読み込み、パウル・クレーピカソなど当時の最先端の芸術家の絵を模写して勉強し(クレー風の作品も展示されている)、さらに欧米の雑誌などからイメージを渉猟していた様子を窺い知ることができる。ドイツで出版された『精神病者の造形』にある精神病患者の絵の模写などを見ると、「アウトサイダー・アート*1にまで関心を広げていたのかと驚いてしまう。
 作品の展示とともに、そのイメージのもととなった実際の資料が展示されていることは、この企画展の大きな魅力となっている。「海」に登場する水着の女性が、「原色写真新刊西洋美人スタイル」のカードから見事に抜き取られていたことがわかる。コラージュの人だったな、と思う。今だったら、横尾忠則みたいな人だったのかもしれない。
 ポスターや書籍の装丁などの展示もあったのだが、こちらは思ったほどのインパクトはなかった。当時としては新しかったのかもしれないが、今に残る新しさではなく、ちょっと詰め込み過ぎで、ありがちなデザインに思えた。アートディレクター的な才覚のある人ではなかったのかもしれない。このあたりは雑誌、ポスターなどでも個性的なアートを創った横尾忠則とは違う感じがした。
 全体的な感想でいうと、シュールリアリズムもいいが、それ以上に印象に残るのは水彩画で、もともとは繊細な人であったことが感じられる。作品だけでなく、資料も充実しており、企画した人たちのエネルギーを感じる「全貌」という名に恥じない企画展だった。先日、千葉市美術館で見た「田中一村ーー新たなる全貌」もそうだったが、ひとりの芸術家の生涯をたどる企画展は、作品を通じて、その人の成長と苦悩を追体験できるところが楽しく、刺激的である。
★「新しい神話がはじまる 古賀春江の全貌」展サイト
 http://t.co/2L0M3xf
ウィキペディアで「古賀春江」を見ると
 wikipedia:古賀春江

*1:服部正アウトサイダー・アート」 を読む- やぶしらず通信 http://t.co/Tvvvjlh