iPS細胞、初の臨床応用成功はウソだった? 日本人科学者の信用は一夜にして崩れ...

 山中先生のノーベル医学・生理学賞受賞で誰もが知るようになったiPS細胞。で、それを応用に、こんな記事が...

あらゆる細胞に分化する能力があるiPS細胞(人工多能性幹細胞)から心筋の細胞を作り、重い心不全患者に移植する治療を、米ハーバード大の森口尚史客員講師らが6人の患者に実施していたことが関係者への取材で分かった。今年のノーベル医学・生理学賞に輝いた京都大の山中伸弥教授がiPS細胞を作って以来、臨床応用は世界初とみられる。

 おお、初の臨床応用例...かと思ったら、一夜にして、その信頼性は崩壊...

体を構成する様々な細胞になるiPS細胞から心筋を作り、患者の心臓に移植する初の臨床応用をした」と米ハーバード大客員講師を名乗る森口尚史氏が米国での学会で発表しようとしたが、森口氏が治療をしたとするマサチューセッツ総合病院とハーバード大は11日、声明を発表し、正規の手続きを経た臨床応用が行われたことを否定した。声明は「森口氏に関連した治験が承認されたことはない。現在、両機関とも森口氏と関係はない」としている。(略)森口氏は同日までにロックフェラー大で開かれているトランスレーショナル幹細胞学会で治療の内容をポスターで掲示した。だが、学会は「内容に疑義がある」としてポスターを撤去。12日は森口氏本人がポスターの前で参加者らに説明する機会も設けられていたが、予定の時間を過ぎても会場に姿を現さなかった。

 うーん。どうなっているんだ...。ハーバート側が否定してしまった。前記の産経新聞は「関係者への取材で分かった」というが、関係者って、誰だったのだろう。
 で、このニュースの真贋で、もう大騒ぎだが、グーグルで「森口尚史」氏を検索すると、東京大学・先端科学技術研究センターの研究者リストが引っ掛かる。ただ、リンクを辿っても、すでに削除されている。ネット上でも東大が速攻削除と話題になっている。では、と思って、グーグルのキャッシュを見ると、こんな紹介が...

特任助教
森口 尚史
Associate Professor MORIGUCHI, Hisashi
次世代知的財産戦略研究ユニット
1995年3月 東京医科歯科大学 大学院医学系研究科修了
1995-1999年 財団法人医療経済研究機構主任研究員・調査部長 ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院客員研究員
1999年8月 東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門研究員
2000年10月 東京大学先端科学技術研究センター客員助教
2002年4月 東京大学先端科学技術研究センター特任助教

 まともな人のように見えるけどなあ。この経歴を見たら、信用してしまうけど...。一方、「科学研究費助成データベース」の検索でも、森口さんの名前はあって...

研究課題申請・成果報告時の所属履歴
2005年度:東京大学 / 先端科学技術研究センター / 特任教授
2004年度-2005年度:東京大学 / 先端科学技術研究センター / 特任助教
2003年度:東京大学 / 先端科学技術研究センター / 科学技術振興特任教員(常勤形態)
2003年度:東京大学 / 先端科学技術研究センター / 科学技術振興特任教員(常勤形態)
2002年度:東京大学 / 先端科学技術センター / 客員助教
研究課題の研究分野
「新領域法学」「応用健康科学」「広領域」

 こちらを見ると、2005年度に特任教授になっている。ますます、信用してしまいそう。ただ、学問領域は、生命科学の基礎・応用分野ではないような...。
 グーグルを検索していると、先端科学技術研究センター時代のものと思われる研究テーマが見えるのだが、そちらは、こんな具合...

先端医療・知的財産政策 (第一製薬
Advanced Medical Tecnology and Intellectual Property Policy (Daiichi Pharmaceutical Co., Ltd)
研究目的
先端医療技術の発展が社会に与える影響について、知的財産制度を前提としつつ、科学技術政策・高等教育政策、生命倫理、医療経済、医療統計などの分野にわたる知見を学際的に動員し、多角的に分析する。
研究課題
先端医療の技術は、生命、特に人の生命を対象にするという点で、他の技術分野にはない際立った特色を持っている。そうした特性を持った科学技術の発展は知的財産権知的財産権政策に独特な影響を与えてきたが、他面では、知的財産権制度がこの分野の技術の進展に大きな影響を与えてきた。この両者を相互関連的に研究するのが、本部門の課題である。

 経歴を見ても、この研究課題を見ても、専門分野は、先端医療技術そのものの基礎・応用というよりも、知的財産権だったように見える。
 ただ、国立国会図書館で森口先生の論文を検索すると...
★「森口尚史」の検索結果: 国立国会図書館サーチ => http://bit.ly/Prh6Vh
 2000年代前半までは知的財産権などの制度的なテーマが多いのだが、2007年ぐらいから、「ファーマコゲノミクス」という言葉が出てきて、ゲノム創薬に関心が移っている様子。となると、今回のような話と全く無縁な人であったわけでもない。この5年ぐらいで専門分野が急激に変化したように見える。
 それにしても、森口先生は何者で、ここ数年、何をしていたのだろう。ひとりで出来る話でもないし、資金も必要だし、誰と一緒に研究していたのだろう。ハーバードは関係を否定しているだけに、やっぱり東大の先端研で何が起きていたのかという話になるなあ。特任教授なり、特任研究員というのは、どこかから研究費が出ている人の役職だと思うのだけど(一時は第一製薬=現・第一三共=だったようだが)、今はどこが研究費を出していたのだろう。研究費の問題で専攻分野が変わってきたのかどうか。しかし、これだけの経歴を持つ人がなぜ、こんなことを...。不思議な話だなあ。というか、これが今の大学、という面もあるのだろうか。

東大先端研物語―東京大学先端科学技術研究センター二〇年のあゆみ

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