遠藤誉『チャイナ・ジャッジ−−毛沢東になれなかった男』

チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男

チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男

 「毛沢東になれなかった男」とは、妻の英国人ビジネスマン殺人事件で失脚した薄熙来。『チャイナ・ナイン』の遠藤誉が、薄一波、薄熙来父子を通して中国の裏面史を描いた本といってもいいかもしれない。薄熙来は昔風の言葉で言えば、まさに「人面獣心」。権力にとりつかれた怪物として描かれている。父子ともに不倫で妻を捨てている経歴など、山崎豊子の小説のような話でもある。いまだに権力闘争で反対派を殺している(逮捕して死刑)ところなど、三国志の世界がそのまま続いている感じもする。一方で、こうした人物を最終的に排除したことは、最低限のチェック機能、バランス感覚は残っているのかもしれない。ただ、毛沢東の負の側面を総括できていないところが、中国の弱さかもしれないと思う。功だけでなくて、財も含めて、毛沢東を冷静に語れるようになる時が中国が大人の国家になれるときなのかもしれない。
 目次で内容を見ると…

序 章 チャイナ・ジャッジ、中国の審判
第1章 男の生い立ち、不倫婚
第2章 大連時代
第3章 1999年
第4章 遼寧省時代
第5章 商務部時代−−運命の分岐点
第6章 重慶時代
第7章 チャイナ・ジャッジ
終 章 世界を覆うチャイナ・マネー−−裸官と投資移民

 自分が成り上がるために悪逆非道の限りを尽くしたように描かれている。打黒社会といって厳しく汚職や犯罪を取り締まったことについては欧米のメディアが評価して、中国の次代のホープみたいな報道をしていたのを読んだ記憶があるが、今にして思えば、反対派を冤罪によって排除し、企業家を犯罪者にして資産を強奪していたという話だとわかる。実は欧米勢も、その実態を知っていて、この男を中国の指導層に入れて、飲み込もうとしていたのだろうか。ともあれ、習近平薄熙来の親の代からの因縁話などエピソードも豊富で、面白い本でした。
チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち